大きな治療を受けた年は、窓口で払う額に上限があります。ひと月の上限と2026年8月からの年間上限は高額療養費の記事にまとめました。
今回はその先の話です。払った医療費は、翌年の確定申告で一部が税金から戻ってきます。これが医療費控除です。ただ、大きな病気をした年ほど計算を間違えやすくなります。高額療養費や入院給付金を「除く」必要があるからです。
1年間に払った医療費のうち、10万円を超えた分が「所得控除」になります
数えるのは、その年の1月1日から12月31日に実際に支払った分(所得税法第73条第1項)。生計を一にする家族の分も入ります。合計から補填される保険金などを除き、その残りのうち10万円(総所得金額等が200万円未満の人はその5%)を超えた分が控除額になります。上限は200万円です。

これは所得控除です。控除額が30万円でも、30万円が戻るわけではありません。所得が30万円減り、その税率のぶんだけ税金が減ります。課税される所得金額が400万円の方(税率20%・No.2260)なら、所得税6万円と翌年度の住民税3万円で、合わせて9万円です。
高額療養費と入院給付金は除きます。傷病手当金は除きません
除くのは、高額療養費や、民間の医療保険から出る入院給付金、出産育児一時金など、医療費を補填するお金です(No.1120)。病院や薬局で払った領収書の合計をそのまま申告すると、あとで修正することが必要になります。
一方、健康保険などから受け取っていても除かないものがあります。代表的なのが傷病手当金と出産手当金です(所得税基本通達73-9)。医療費そのものではなく、休んで給与が減ったことを補うお金だからです。勤め先の見舞金も同じ扱いです。額と1年6か月の数え方は傷病手当金と障害年金の記事に書きました。
除くのは、その給付の対象になった医療費からだけ
医療費の合計からまとめて除くのではありません。国税庁は、補填される金額を除けるのはその給付の目的となった医療費までで、余った分を他の医療費から除くことはしないとしています(No.1120)。
入院と手術で40万円、歯の治療で15万円。入院について高額療養費20万円と入院給付金30万円、合わせて50万円を受け取ったとします。補填は50万円ですが、入院費は40万円。除けるのは40万円までで、はみ出した10万円を歯の治療費から除くことはしません。残る15万円のうち10万円を超えた分、控除額は5万円です。

よくある間違いは、医療費の合計55万円から補填の50万円をまとめて除いてしまうことです。この計算だと残りは5万円で、10万円に届かず、控除額はゼロになります。正しいのは、先ほどの5万円のほうです。同じ支払いでも、どこから除くかで、これだけの差が出ます。
しかも、この計算をしても申告は受け付けられます。取りすぎた控除は指摘されることがありますが、取り損ねた控除を知らせてくれる仕組みはありません。取り戻すには、自分で更正の請求をします(No.2026)。
金額が確定していない分は、見込みの額で除きます
12月にかかった分の高額療養費が、翌年3月の申告までに振り込まれているとは限りません。空欄にして待つのではなく、受け取る額を見積もって除きます(所得税基本通達73-10)。違っていたら修正申告か更正の請求で直します。年間上限は8月から翌年7月、医療費控除は1月から12月。年をまたぐ治療で、振り込みより先に申告するなら、この計算が必要になります(高額療養費の記事)。
なお、還付だけの申告なら5年の間いつでも出せます。振り込まれてから申告すれば、見積もりも修正申告も要りません。確定申告の義務がある方は3月15日が期限です。間に合わないようであれば、見積もりの額で提出するか、期限内に申告しておいて、金額が確定してから更正の請求をする方法もあります。
対象になるもの、ならないもの
| 対象になる | 対象にならない | |
|---|---|---|
| 通院の足 | 電車・バスの通院費 | ガソリン代・駐車場代、タクシー代(公共交通機関が利用できない場合を除く) |
| 入院中 | 病院で出される食事代、付添料(家族に払うものは除く) | 身の回り品、出前や外食、お礼、本人や家族の都合だけで入った個室の差額ベッド代 |
| 薬 | 治療に必要な医薬品 | ビタミン剤など予防のためのもの |
| 検査 | 健診で重大な疾病が見つかり、引き続き治療した場合の健診費用 | 人間ドックその他の健康診断(原則) |
出典はNo.1122・No.1126・質疑応答事例「人間ドックの費用」。通院費は領収書が出ないので、日付と行き先と金額を記録しておきます。
年末調整では控除を受けられません。一方、5年前の分までさかのぼれます
医療費控除は、会社の年末調整では受けられません。自分で確定申告をする必要があります。「医療費控除の明細書」を作って添付します(No.1119)。マイナポータル連携や医療費通知を使えば、明細書への記入が簡単になり、通知に載っている分は領収書を取っておく必要もなくなります。
期限は、その年の翌年1月1日から5年間(No.2030 還付申告)。去年の分も、その前の年の分も、まだ間に合います。対象はその年に「支払った」分だけで、12月の治療でも、支払いが翌年1月なら翌年分になります。
なお、ふるさと納税のワンストップ特例は無効になります。申告書に寄附の分も書いてください(ふるさと納税の記事)。
世帯で合算できます。住民税も下がります
生計を一にする家族の分も対象なので、仕送りをしている親の医療費も入ります。所得の高い人がまとめたほうが得と言われるのは、所得税が累進課税だからです。ただしその人が実際に支払っていることが前提で、名義の付け替えは通りません。
住民税にも同じ控除があります(地方税法第314条の2第1項第2号)。確定申告をすると、その内容が税務署から市区町村へ回ります。住民税のために別の申告をする必要はありません。控除30万円なら、所得割10%で3万円。下がるのは翌年度の6月からです。
ただし、申告しても住民税の非課税世帯になることはありません。均等割の非課税は、所得控除をする前の合計所得金額で判定されるからです(地方税法第295条第3項)。入院時の食事代の減額は非課税世帯かどうかで決まるので、そこには届きません(出ていくお金を減らす5つの申請)。
まとめ
覚えて帰っていただきたいのは、3つだけです。
- 戻ってきたお金は、その治療の医療費からだけ除く。 高額療養費も、民間保険の入院給付金も同じです
- 傷病手当金と出産手当金は、そのまま。 医療費ではなく、減った給与を補うお金だからです
- 急がなくて大丈夫。 年末調整では受けられませんが、確定申告は5年前の分までさかのぼれます
医療費控除は、申告しないと1円も戻りません。治療が落ち着いてからでも遅くないので、領収書だけは残しておいてください。
この記事で確認したこと(出どころ)
- 国税庁 タックスアンサー No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1120.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.1122 医療費控除の対象となる医療費 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1122.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.1124 医療費控除の対象となる出産費用の具体例 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1124.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.1126 医療費控除の対象となる入院費用の具体例 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1126.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.1119 医療費控除に関する手続について https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1119.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.2026 確定申告を間違えたとき https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2026.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.2030 還付申告 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2030.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.2260 所得税の税率 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
- 国税庁 質疑応答事例「支払った医療費を超える補填金」 https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/05/28.htm
- 国税庁 質疑応答事例「医療費を補填する保険金等が未確定の場合」 https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/05/59.htm
- 国税庁 質疑応答事例「出産のために欠勤した場合に給付される出産手当金」 https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/05/27.htm
- 国税庁 質疑応答事例「人間ドックの費用」 https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/05/09.htm
- 国税庁「医療費控除を受ける方へ」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tokushu/keisubetsu/iryou-koujo.htm
- e-Gov法令検索 所得税法 第73条 https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- e-Gov法令検索 地方税法 第295条・第314条の2 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000226

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