病気やけがで働けなくなったとき、生活を支えるお金は二段構えです。まず健康保険の傷病手当金。給与のおおむね3分の2が、支給を始めた日から通算して1年6か月まで出ます。会社を辞めたあとも、条件を満たせば続きます。その先が障害年金です。
給料は止まりますが、社会保険料や住民税は止まりません。この「入ってこないのに出ていく」時期に、いくら入ってきて、いつまで続くのか。順に見ていきます。
傷病手当金がもらえる条件と、いくらもらえるか
会社の健康保険に入っている方が、仕事以外の理由の病気やけがで働けなくなったときに出るお金です。パートやアルバイトでも、健康保険に加入していれば対象になります。条件は4つです。
- 仕事以外の理由による病気やけがで、療養のために休んでいること
- その療養のために、仕事に就くことができないこと
- 連続する3日間を含めて、4日以上仕事を休んでいること
- 休んだ期間について、給与の支払いがないこと
はじめの連続する3日間は「待期」といって、ここに手当は出ません。有給休暇でも土日祝でもかまいませんが、連続していないと成立しません。2日休んで3日目に出勤すると、そこで数え直しになります(協会けんぽ)。
なお、仕事中や通勤中のけが・病気は労災の扱いで、両方を同時に受け取ることはできません(健康保険法第55条第1項)。
金額は、1日あたり、休みはじめる前の給与の平均のおおむね3分の2です。正確には、直近12か月の標準報酬月額(給与を等級に当てはめた額)の平均を30で割り、その3分の2(健康保険法第99条第2項)。
月給がおよそ30万円(標準報酬月額30万円)の方の場合
- 300,000円 ÷ 30 = 10,000円(10円未満は四捨五入)
- 10,000円 × 3分の2 = 1日あたり6,667円(1円未満は四捨五入)
- 30日休むと、6,667円 × 30日 = 200,010円
ひと月およそ20万円。ただし、ここから社会保険料と住民税が出ていくので、手元に残るのはもとの給与の半分ほどです。内訳は休職中の社会保険料は会社が立て替えますにまとめました。
健康保険に入って12か月たっていない方は、計算が変わります。それまでの各月の標準報酬月額の平均と、32万円(協会けんぽの場合。支給開始日が令和7年4月1日以降の方の額)のうち、少ないほうの3分の2です。
会社から給与の一部が出たときは、その分が差し引かれます。ただし給与のほうが少なければ、差額が支給されます。

「1年6か月」の数え方が変わりました
傷病手当金が出る期間は、支給を始めた日から通算して1年6か月です(健康保険法第99条第4項)。
令和4年1月1日に変わったところで、それまでは「始まった日から1年6か月」というカレンダー通りの数え方でした。いまは通算なので、途中でいったん復帰して働いた期間は数えません。その分、あとに繰り越せます。
体調に波がある病気では、この差は小さくありません。「一度戻ったら期限が減ってしまう」と身構えて、無理に休み続けなくてよくなりました。
退職後も傷病手当金は続くのか
続きます。健康保険法第104条の「資格喪失後の継続給付」という仕組みで、条件は2つです。
- 退職日の前日まで、続けて1年以上、会社の健康保険に入っていたこと(任意継続や共済組合の期間は、この1年に数えません)
- 退職した時点で、傷病手当金を受けているか、受けられる状態であること
2つ目の「受けられる状態」には、連続する3日の待期が済んでいて、給与が出ているために支給が止まっているだけ、という場合も入ります。そして退職後に受け取れるのは、通算1年6か月のうちの残りです。退職したからといって数え直しにはなりません。請求する先も、辞めた会社の健康保険(協会けんぽや健康保険組合)のままで、次に入った国民健康保険ではありません。
ここに、知らないと取り返しのつかない点が3つあります。
1つめ。退職日に出勤すると、受けられません。 協会けんぽは「退職日に出勤したときは、継続給付を受ける条件を満たさないために資格喪失後(退職日の翌日)以降の傷病手当金はお支払いできません」と書いています。あいさつや引き継ぎのつもりの1日で、翌日からの給付がなくなります。
2つめ。退職後に一度でも働ける状態になると、そこで終わります。 在職中なら、復帰してまた休んだときに残りを使えます。退職後は違い、協会けんぽは「一旦仕事に就くことできる状態になった場合、その後更に仕事に就くことができない状態になっても、傷病手当金は支給されません」としています。
3つめ。老齢年金を受けていると、原則として支給されません。 退職後に継続給付を受けている方が老齢厚生年金などを受けられるようになると、傷病手当金は止まります。ただし、年金額の360分の1が傷病手当金の日額より少ないときは、その差額が出ます(健康保険法第108条第5項)。この調整は退職後だけで、在職中には起きません。なお、傷病手当金は医療費を補うお金ではないので、確定申告の医療費控除では除きません(医療費控除では、高額療養費で戻った分を、その治療の医療費からだけ除きます)。
なお、任意継続を選んでも、新しい傷病手当金は出ません。 任意継続中に発生した病気やけがは対象外で(同法第99条第1項)、退職前から受けている継続給付だけが続きます。任意継続と国民健康保険のどちらを選ぶかは退職後の健康保険の切り替えと会社都合で退職したときの国民健康保険に書きました。

傷病手当金が終わったあとの障害年金(2級はいくらか)
1年6か月は、思っているより早く来ます。そして、そこで終わりではありません。障害が残っている場合には、障害年金という別の制度に引き継がれます。健康保険ではなく、公的年金の仕組みです。
令和8年度(2026年4月分から)の障害基礎年金は、2級で年額847,300円、1級で年額1,059,125円です(昭和31年4月1日以前に生まれた方は、2級844,900円・1級1,056,125円)。お子さんがいる場合は、2人までは1人につき243,800円、3人目からは1人につき81,300円が加算されます。厚生年金に入っていた方は、これに障害厚生年金が上乗せされます。3級のみでも、年額635,500円が最低保障されています。
2級を月あたりにすると、およそ7万円。傷病手当金のひと月20万円と比べると、生活の設計は組み直しになります。
障害年金について、誤解されやすい点を3つだけ。
- 病名だけでは決まりません。 ものさしは、日常生活や仕事にどれだけ支障があるかです。うつ病などの精神疾患も対象です(原則として対象にしないと定められている病気もあります)。
- 働いていることだけを理由に止まる仕組みには、なっていません。 精神の障害についての国の認定基準にも「労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず」と書かれています。ただし、どう働いているかは等級を判断する材料になります。
- 非課税です。 障害年金に所得税はかかりません。
障害が原因で退職して退職金を受け取るときは、退職所得控除に100万円が足されます。
数え方の起点が違います
ここは分かりにくいので、はっきり書いておきます。
- 傷病手当金の1年6か月 … 手当が出はじめた日から数える
- 障害年金の「障害認定日」 … はじめて医師の診察を受けた日(初診日)から1年6か月
起点が違うので、同じ「1年6か月」でも時期がずれます。 病院にかかってから休職に入るまでに間があいた方は、障害年金の側が先に来ます。傷病手当金が切れる日を待ってから動き出すと、遅れることがあります。
そして、時期が重なったときは、両方を満額では受け取れません。障害年金は、土台の障害基礎年金と、会社員に上乗せされる障害厚生年金の二階建てです。このうち障害厚生年金を受けられるようになると、同じ病気やけがの傷病手当金は原則として止まります。ただし、2つを合わせた年金額を1日あたりに直した額が傷病手当金の日額より少なければ、その差額は支給されます(健康保険法第108条第3項)。どちらが多いかは、給与の額と年金の額しだいで人によって変わります。

見落とされやすい落とし穴
障害年金には、保険料をきちんと納めていたか、という条件があります。初診日の前々月までの期間の3分の2以上が納付か免除であること。あるいは直近1年間に未納がないこと(初診日が令和18年3月末までにあり、そのとき65歳未満であった場合の特例)。
問題は、辞めたあとの空白期間です。体調を崩して退職した方は、国民年金への切り替えを後回しにしがちです。その未納の期間中に新しい病院にかかると、そこが初診日と扱われ、条件を満たさなくなることがあります。
保険料を払うのが難しければ、免除の申請ができます。窓口で「払えない」と相談すれば、手続きを教えてもらえます。放っておくのがいちばん不利になります。
産業医として、ひとつだけ
私が仕事のなかで感じるのは、この時間軸を早く知っているかどうかで、療養の過ごし方が変わるということです。
「あと何か月あるのか」が分からないまま休んでいると、焦りが治療の邪魔をします。逆に、1年6か月という区切りと、その先にも仕組みがあることを知っていれば、腰を据えて休めます。
そして、申請の手続きは体調が悪いときほど負担になります。病院の相談窓口(医療ソーシャルワーカー)は、こうした制度の相談を受けてくれる場所です。ご家族に動いてもらうのもかまいません。ひとりで抱える必要はありません。
まとめ
- 働けない期間のお金は、傷病手当金 → 障害年金の二段構え
- 傷病手当金は給与のおおむね3分の2。連続3日の待期のあと、4日目から。標準報酬月額30万円なら1日6,667円
- 期間は支給を始めた日から通算して1年6か月。途中で復帰した分は繰り越せる(令和4年1月から)
- 退職後も続く。ただし退職日に出勤すると受けられず、いったん働ける状態になると、そこで終わる
- 障害基礎年金は令和8年度で2級847,300円、1級1,059,125円。3級のみでも635,500円
- 1年6か月の起点が両者で違い(手当は支給開始日、年金は初診日)、重なる時期には調整が入る
制度の細かいところは、加入している健康保険や個々の状況によって違います。実際の判断は、ご自身の窓口でご相談ください。
なお、この記事は自分が働けなくなったときの話です。自分ではなく家族の介護のために休むときは、別の制度になります(介護休業に社会保険料の免除はありません)。介護保険のサービスを使うまでの手続きは、要介護認定は、申請から結果まで平均39.9日。待つあいだも、申請した日にさかのぼって使えますで書いています。
働けない間のお金の記事
この記事は、働けない間のお金をまとめた6本のうちの1本です。あわせてどうぞ。


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