高額療養費に年間上限ができました。8月から翌年7月で数えて、53万円で止まります

青空と雲の下、沖に防波堤が伸びる海と広い砂浜を描いた水彩画 お金と制度
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2026年8月から、高額療養費に「年間上限」という仕組みができました。

数えるのは、8月から翌年7月までの1年です。年収約370万〜770万円の区分なら、1年で53万円。ここまで払うと、その1年はそれ以上増えません。

誰にとっても8月始まりの固定した1年です。春に治療が始まると、7月でいったん区切られて、8月からまた数え直しになります。

同じ8月に、ひと月の上限のほうは上がりました。5月に法律が成立し、8月の診療分からの実施です。ただ、上がった話だけではありません。順番に見ていきます。

そもそも高額療養費は「ひと月いくら」の制度でした

ひと月に医療機関の窓口で払った額が高くなったとき、決められた上限を超えた分が戻ってくる制度です。上限の額は、その人の所得によって決まります。

この「ひと月いくら」には、もうひとつ仕組みがあります。多数回該当です。直近12か月のうち3回以上上限に達すると、4回目からは上限がさらに下がり、年収約370万〜770万円の区分なら44,400円になります。

どちらも月ごとの計算です。そのため、毎月の負担が上限にわずかに届かない状態が続く人は、金額が積み上がっていても制度の対象になりませんでした。

年間上限は「8月から翌年7月」で数えます

そこに、1年単位の上限が新しく設けられました。年収約370万〜770万円の区分なら、1年で53万円です。

ここでいう1年とは、8月から翌年7月までを指します。厚生労働省の案内にも「年間とは、8月から翌年7月までを指します」と書かれています。

治療を始めた月から1年ではありません。誰にとっても8月始まりの固定した1年です。多数回該当が「直近12か月」で数えるのとは違います。

年間上限のしくみを、月ごとの自己負担額の積み上がりで示した図

図は、8月に入院して手術し、その後も外来の薬物療法が1年続いた場合です。

最初の3か月はひと月の上限に達し、4回目からは多数回該当で44,400円に下がります。それでも積み上がり、翌年5月に53万円に到達します。1年の合計は65万7千円ですが、自己負担は53万円で止まり、差の12万7千円は戻ってきます。

年間上限の額は所得の区分で変わります。年収約770万円までが53万円、約770万〜1,160万円が111万円、約1,160万円以上が168万円、住民税非課税が29万円。標準報酬月額15万円以下と確認できた方は41万円です(この41万円の払い戻しは2027年8月以降と案内されています)。

春に治療が始まると、7月でいったん区切られます

8月始まりということは、裏を返せば、7月で区切られるということです。たとえば3月に治療が始まった場合、3月から7月までの5か月分は、その前の年の8月から続く1年のほうに数えられます。8月からは、また0円から数え直しです。

同じ重さの治療でも、8月に始まった方は12か月ぶんが1年に収まり、3月に始まった方は5か月と7か月に分かれます。53万円に届くかは、この区切りでも変わります。

年間上限の53万円は、窓口では引かれません

ひと月の上限のほうは、マイナ保険証か限度額適用認定証があれば、窓口の支払いがその額で止まります。

年間上限は、そうなっていません。いったん窓口で支払ったうえで、あとから加入している健康保険(保険者)から、償還払いというかたちで戻ってきます。

「自分で申請しないと戻ってこないのか、保険者が計算して振り込んでくれるのか」は、厚生労働省のページにも協会けんぽの案内にも書かれていません。どちらも「保険者から還付を受けることができます」までです。

断定して書いているページも見かけますが、公式の資料に記載がない以上、ここは加入している健康保険にご確認くださいとしか書けません。年間上限に届きそうなら、早めに一度聞いておくのが確実です。

年間上限53万円と、多数回該当44,400円。200円の差にある意味

年間上限の53万円を12か月で割ると、ひと月あたり約44,200円。先ほどの多数回該当が44,400円でしたから、年間上限のほうが200円だけ低く置かれています。

これは偶然ではありません。厚生労働省の資料には、年間上限の月額平均について「多数回該当を下回る水準に設定」と書かれています。多数回該当を使い続けている方でも、年間で見れば必ず年間上限のほうが有利になるよう、意図して並べられた数字です。

ただし、年間で53万円に届くには、それなりに重い治療が1年続く必要があります。手術のあと数か月で終わる経過であれば、年間上限には届きません。

① 上がったもの ── ひと月の上限

ここからは、同じ8月に変わったもうひとつの話です。見直しは、上がったもの(①)と据え置かれたもの(②)に分かれます。

年収の区分別に、月の自己負担限度額がいくら上がったかを示した早見表

70歳未満の場合、こう変わりました。

多くの会社員が当てはまるのは「年収約370万〜770万円」の区分です。ここは80,100円+1%から85,800円+1%になりました。ひと月あたり5,700円の増加です。

年収が高い区分ほど上げ幅は大きく、住民税非課税の区分は1,500円にとどめられています。

区分は年収ではなく標準報酬月額で決まるので、表の年収は目安です。自分の区分はマイナポータルで確かめられます。

「+1%」とは何の1%なのか

いちばん引っかかるのは、この「+1%」だと思います。

1か月の総医療費が増えたときに自己負担がどう変わるかを示した折れ線グラフ

これは、その月の総医療費、つまり10割の額が一定額を超えたとき、超えた分の1%を上乗せするという意味です。

年収約370万〜770万円の区分なら、正確な式はこうなります。

85,800円 +(その月の総医療費 - 286,000円)× 1%

286,000円は、上限の85,800円を3割で割った額です。「上限に達したちょうどの地点」を指しています。

大事なのは、ここから先の傾きです。総医療費100万円の月の自己負担は92,940円、300万円かかっても112,940円。医療費が3倍でも、自己負担は2万円しか増えません。

なお、差し引く286,000円も今回変わりました(従来は267,000円)。上限額だけ新しくして差引額を古いまま計算している解説を見かけますが、それでは答えが合いません。

② 据え置かれたもの ── 長く治療している人の分

ひと月の上限が上がった一方で、多数回該当の44,400円は今回引き上げられていません。長く治療を続けている方の負担を増やさない、という考え方によるものです。

見直しは、2027年8月にもあります

高額療養費の見直しが2026年8月と2027年8月の2回に分けて行われることを示した図

今回の改正は2回に分けて行われます。2026年8月が1回目、2027年8月が2回目です。2回目では所得の区分が5つから13に細かく分かれ、年収約510万〜650万円は98,100円+1%、約650万〜770万円は110,400円+1%と、いまより上がる層が出てきます。

一方で、年収約200万円未満の方は多数回該当が44,400円から34,500円に下がります。なお、年間上限の53万円は、2027年8月からも変わりません。

年間上限53万円に入らないお金(食事代・差額ベッド代・先進医療)

ここまでの上限は、健康保険が使われた医療費の話です。入院すると、それ以外にもお金がかかります。

代表は食事代です。入院中の食事は、2026年6月から1食550円になりました。1日3食で1,650円、30日で約5万円です。個室を希望したときの差額ベッド代、先進医療の技術料も、健康保険がきかず全額が自己負担です。

食事代の自己負担は高額療養費の対象から除外される、と協会けんぽの案内にも書かれています。ひと月の上限にも、年間上限の53万円にも含まれません。入院のお金を見積もるときは、上限額に上乗せしておくと安全です。

ただし、確定申告の医療費控除では扱いが変わります。国税庁は、入院中に病院で出される食事は入院代に含まれるので対象になる、と書いています(タックスアンサー No.1126)。食事代も対象外だと書くページを見かけるので、迷ったらここで確かめてください。

差額ベッド代だけは、本人や家族の都合だけで個室にした場合は対象外です。これも同じNo.1126にあります。

年間上限に届きそうなとき、しておくとよいこと

ひとつ目は、自分の所得区分を確かめておくことです。区分が分かれば、ひと月の上限も年間上限も、自分の金額として読めます。

ふたつ目は、マイナ保険証を使えるようにしておくことです。あれば、窓口で手続きなしにひと月の上限額までの支払いで済みます。ない場合は、資格確認書か限度額適用認定証を事前に用意します。

3つ目は、加入している健康保険に、年間上限の受け取り方を聞いておくことです。先に書いたとおり、申請が要るのかどうかは公式の案内では分かりません。「年間上限に達したら、申請は必要ですか」と、一度相談してみてください。

4つ目は、医療費の領収書を捨てずに取っておくことです。年間上限は8月から翌年7月、医療費控除は1月から12月で数えます。区切りが違ううえ、医療費控除では申告期限から5年間の保存が必要です。年で区切らず残すのが確実です。なお、戻ってきた高額療養費は医療費控除で医療費から除きます。除くのはその治療の医療費からだけです(医療費控除では、高額療養費で戻った分を、その治療の医療費からだけ除きます)。

まとめ

2026年8月からの高額療養費は、こう読むのが早いと思います。ひと月の上限は上がった。多数回該当は据え置かれた。そのうえに、8月から翌年7月で数える年間上限がかかった。年収約370万〜770万円の区分なら、ひと月85,800円+1%、4回目から44,400円、1年で53万円。この3つが自分の上限です。

働けなくなったときに入ってくるお金については前回の記事で書きました。今回はその裏側、出ていくお金に上限があるという話です。どちらも、知っているかどうかだけで手元に残るお金が変わります。

この高額療養費のような制度を患者さんに説明していた経験で、CFPの実務経験が認められました。その話はCFPの実務経験3年は、金融の仕事でなくても条件を満たせますに書いています。

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