今月から、医療費の自己負担の上限が変わりました。
2026年8月1日、正確には8月の診療分から、高額療養費制度が見直されています。5月に法律が成立し、8月から実施という流れでした。負担が増えるというニュースをご覧になった方もいらっしゃると思います。
ただ、上がった話だけではありません。同時に、新しい仕組みがひとつ増えています。
順番に見ていきます。
そもそも高額療養費とは
ひと月に医療機関の窓口で払った額が高くなったとき、決められた上限を超えた分が戻ってくる制度です。上限の額は、その人の所得によって決まります。
公的な医療保険のなかで、いちばん頼りになる部分です。民間の医療保険に入るかどうかを考えるときも、まずここを知ってから判断することになります。
① 上がったもの ── ひと月の上限

70歳未満の場合、こう変わりました。
多くの会社員が当てはまるのは「年収約370万〜770万円」の区分です。ここは80,100円+1%から85,800円+1%になりました。ひと月あたり5,700円の増加です。
年収が高い区分ほど上げ幅は大きく、住民税非課税の区分は1,500円にとどめられています。
自分がどの区分かは、マイナポータル、資格確認書、限度額適用認定証で確かめられます。区分は年収そのものではなく標準報酬月額で決まるので、表の年収は目安として見てください。
「+1%」とは何の1%なのか
表を見て、いちばん引っかかるのがこの「+1%」だと思います。

これは、その月の総医療費、つまり窓口で払う3割ではなく10割の額が、一定額を超えたときに、超えた分の1%を上乗せするという意味です。
年収約370万〜770万円の区分なら、正確な式はこうなります。
85,800円 +(その月の総医療費 - 286,000円)× 1%
286,000円という数字は、上限の85,800円を3割で割った額です。つまり「上限に達したちょうどの地点」を指しています。
大事なのは、ここから先の傾きです。総医療費が100万円かかった月の自己負担は92,940円、300万円かかっても112,940円にしかなりません。医療費が3倍になっても、自己負担は2万円しか増えない計算です。
なお、この差し引く286,000円も今回の改正で変わりました(従来は267,000円)。上限額だけ新しくして差引額を古いまま計算している解説を見かけますが、それでは答えが合いません。
② 据え置かれたもの ── 長く治療している人の分
高額療養費には「多数回該当」という仕組みがあります。直近12か月のうち3回以上上限に達した場合、4回目からは上限がさらに下がるというものです。
年収約370万〜770万円の区分なら、4回目からは44,400円になります。
この多数回該当の金額は、今回引き上げられていません。長く治療を続けている方の負担を増やさない、という考え方によるものです。
③ 新しくできたもの ── 年間上限
ここからが今回の見直しでいちばん大きい部分です。
これまでの高額療養費は、すべて「ひと月いくら」で計算されていました。そのため、毎月の負担が上限にわずかに届かない状態が延々と続く人は、制度の対象になりません。金額が積み上がっていても、月ごとに見れば上限に達していないからです。
そこに、1年単位の上限が新しく設けられました。年収約370万〜770万円の区分なら、1年で53万円です。
ここでいう1年とは、8月から翌年7月までを指します。
治療を始めた月から1年ではなく、誰にとっても8月始まりの固定した1年です。先ほどの多数回該当が「直近12か月」で数えるのとは違います。
そのため、治療が春ごろに始まると、7月末でいったん区切られる点には注意が要ります。

図は、8月に入院して手術し、その後も外来の薬物療法が1年続いた場合です。
最初の3か月はひと月の上限に達し、4回目からは多数回該当で44,400円に下がります。それでも積み上がっていき、翌年5月に53万円に到達します。1年の合計は65万7千円ですが、自己負担は53万円で止まり、差の12万7千円は戻ってきます。
ひとつ注意があります。年間上限を超えた分は、窓口で自動的に引かれるわけではありません。いったん窓口で支払ったうえで、加入している健康保険から後日、償還払いというかたちで戻ってきます。
この53万円という数字の意味
年間上限の53万円を12か月で割ると、ひと月あたり約44,200円になります。
先ほどの多数回該当が44,400円でした。年間上限のほうが、わずか200円だけ低く置かれています。
これは偶然ではありません。多数回該当をずっと使い続けている方でも、年間で見れば必ず年間上限のほうが有利になるように設計されています。数字の並びとしては地味ですが、制度をつくった側の意図がはっきり出ている部分です。
ただし、正直に申し上げておくべきこともあります。年間で53万円に届くには、それなりに重い治療が1年続く必要があります。手術のあと数か月で治療が終わるような経過であれば、年間上限には届きません。
見直しは、2027年8月にもあります

今回の改正は2回に分けて行われます。2026年8月に始まったのが1回目、2027年8月からが2回目です。
2回目では、所得の区分が5つから13に細かく分かれます。年収約510万〜650万円は98,100円+1%、年収約650万〜770万円は110,400円+1%と、いまより上がる層が出てきます。
一方で、年収約200万円未満の方は多数回該当の額が下がるなど、負担が軽くなる部分もあります。
いまの「年収約370万〜770万円でひとくくり」という大ざっぱな区分が、より所得に応じたかたちに変わっていく、という流れです。
上限の中に入らないお金があります
ここまでの上限は、健康保険が使われた医療費についての話です。入院すると、それ以外にもお金がかかります。
代表は食事代です。入院中の食事は、2026年6月から1食550円になりました。1日3食で1,650円、30日で約5万円です。個室などを希望したときの差額ベッド代、先進医療の技術料も、健康保険がきかず、全額が自己負担になります。
これらは高額療養費の計算に入らないので、年間上限の53万円にも含まれません。入院にかかるお金を見積もるときは、上限額に上乗せして考えておくと安全です。
ただし、確定申告の医療費控除では扱いが変わります。病院が出す食事代も、先進医療の技術料も、医療費控除の対象です。差額ベッド代だけは、本人や家族の都合で個室にした場合は対象になりません。高額療養費で戻らなかった分こそ、申告で拾いにいく値打ちがあります。
いま、しておくとよいこと
ひとつ目は、自分の所得区分を確かめておくことです。マイナポータルで見られます。いざというときに「自分はいくらまでか」を知っているかどうかで、落ち着き方がまるで違います。
ふたつ目は、マイナ保険証を使えるようにしておくことです。マイナ保険証があれば、医療機関の窓口で手続きなしに上限額までの支払いで済みます。持っていない場合は、資格確認書か限度額適用認定証を事前に用意する必要があります。
3つ目は、医療費の領収書を捨てずに取っておくことです。年間上限は8月から翌年7月までで数えますが、医療費控除は1月から12月で数えます。区切りが違ううえ、医療費控除では申告期限から5年間の保存が必要です。年で区切らず、まとめて残しておくのが確実です。
まとめ
ひと月の上限は上がりました。ここは正直に、負担増です。
ただ、長く治療を続けている方の多数回該当は据え置かれ、そのうえに1年単位の上限という新しい網がかかりました。制度を将来にわたって持たせるために負担をお願いしつつ、長くかかる人ほど守るという設計になっています。
働けなくなったときに入ってくるお金については前回の記事で書きました。今回はその裏側、出ていくお金に上限があるという話でした。どちらも、知っているかどうかだけで手元に残るお金が変わります。

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