「新NISAで利益が出ると、社会保険料が上がるらしい」
そんな話を見かけて、不安になった方がいらっしゃると思います。先に結論をお伝えします。
NISAの利益で保険料が上がることはありません。そして2026年5月に決まった仕組みは、75歳以上の方の話です。会社員の健康保険にも、いまの国民健康保険にも、今回の改正は及びません。
ただし、現役世代にいま関係する変更は、別にあります。そちらのほうが、ずっと身近です。順に説明します。
NISAの利益は、保険料の計算に入りません
NISA口座のなかで受け取った配当や、売って出た利益は非課税です。税金がかからないということは、税の世界で「所得」として数えられないということです。
健康保険料も介護保険料も、税の世界で確定した所得をもとに計算されます。元になる所得に入らないのですから、保険料にも入りません。
ここは、どれだけ制度が変わっても揺らぎにくいところです。NISAは「非課税で運用する」ことがそもそもの仕組みなので、その利益を保険料の計算に入れるとなれば、制度の土台から作り直すことになります。
「金融資産」ではなく「金融所得」の話です
ここが、いちばん取り違えられているところです。
ニュースの見出しだけを見ると、「持っている株や預金そのものに保険料がかかる」と読めてしまいます。そうではありません。議論されてきたのは金融所得、つまり配当や利子として実際に受け取ったお金のほうです。
資産を持っているだけでは、保険料は上がりません。この一点を押さえるだけで、不安のかなりの部分は消えると思います。
2026年5月、法律が決まりました
そのうえで、何が決まったのかをお伝えします。
2026年5月29日、健康保険法等の一部を改正する法律が成立し、6月5日に公布されました。改正の柱のひとつが「後期高齢者医療制度における金融所得の勘案」です。

対象は、75歳以上の方が入る後期高齢者医療制度です。国民健康保険も、会社員が入る健康保険も、今回の改正には入っていません。
いまは、確定申告をするかどうかで変わります
なぜこの改正が必要とされたのか。厚生労働省の資料には、こういう形で書かれています。
年金や給与、不動産の所得は、そのまま保険料や窓口負担に反映されます。ところが上場株式の配当などは、確定申告をした方だけ反映され、源泉徴収だけで済ませて確定申告をしない方は反映されないという状態でした。市町村が所得を把握できないためです。
つまり、同じだけ配当を受け取っていても、申告するかどうかで保険料が変わっていた。この不公平を直そう、というのが今回の趣旨です。
そこで今回の法律で、金融機関等が法定調書を後期高齢者医療広域連合へオンラインで提出する義務を設けることが決まりました。本人が確定申告をしていなくても、保険者の側で金融所得を把握できるようにする、という土台づくりです。動き出すのは、これからです。
保険料に反映されるのは、2032年ごろの見込みです
ここが、報道ではあまり伝わっていないところだと思います。
この部分の施行は「公布後5年以内」とされています。厚生労働省が示している想定スケジュールでは、こうなっています。

- 法定調書のオンライン提出の要請 = 公布後2〜3年程度
- オンライン提出の義務化 = 公布後4〜5年程度
- 保険料・窓口負担割合への反映 = 義務化のさらに1年8か月ほど後
公布が2026年6月ですから、実際に保険料へ反映され始めるのは2032年ごろという計算になります。しかも資料自体に、システム改修に2年程度かかることを前提に機械的に組んだものであり、他の要因で後ろ倒しになる可能性に留意と書かれています。
決まったことは確かです。ただ、明日から何かが変わる話ではありません。
現役世代にいま関係するのは、別の変更です
ここからが本題かもしれません。現役世代の保険料に、すでに反映されている変更があります。
令和5年分の所得(住民税では令和6年度分)から、上場株式等の配当所得等・譲渡所得等について、所得税と住民税で別々の課税方式を選ぶことができなくなりました。
以前は、所得税では確定申告して配当控除を受け、住民税では「申告不要」を選ぶ、という使い分けができました。住民税の所得に入らなければ、国民健康保険料や介護保険料の計算にも入らなかったのです。
いまはこの使い分けができません。確定申告で総合課税や申告分離課税を選ぶと、住民税でも同じ扱いになり、国民健康保険料・介護保険料・後期高齢者医療の保険料にも、そのまま反映されます。
いっぽう、確定申告をせず申告不要のままにすれば、合計所得金額に算入されないので保険料には影響しません。ただしその場合、配当割額控除や株式等譲渡所得割額控除は受けられません。
では、どういうときに「税金は減ったのに、保険料は増えた」が起きるのか。配当を総合課税で確定申告して、配当控除を受ける場合が、その典型です。
所得税と住民税のほうは、配当控除のぶんだけ税額が引かれます。ところが国民健康保険料は、前年の総所得金額等から基礎控除43万円を引いた額に、料率をかけて計算します。ここには配当控除のような税額控除は、いっさい差し引かれません。医療費控除や扶養控除といった所得控除も使えません。申告した配当は、保険料のもとになる所得にそのまま足されるということです。
この「引いたあとの額」を、市町村の案内では「旧ただし書き所得」と呼びます。聞き慣れない言葉ですが、昔の地方税法の条文の“ただし書き”に書かれていた計算方法が、そのまま呼び名として残ったものです。保険料の通知や市町村のホームページでよく出てくるので、「保険料のもとになる所得のこと」と覚えておけば十分です。
この43万円は、ご本人の所得だけで決まる控除です。合計所得金額が2,400万円を超えると29万円・15万円と減り、2,500万円を超えるとゼロになります。家族の収入で増えたり減ったりするものではありません。なお、「基礎控除は58万円では?」と思われた方へ。それは所得税の基礎控除です(令和7年分から48万円→58万円に引き上げ。所得に応じた上乗せもあります)。国民健康保険料が使うのは住民税と同じ43万円のほうで、こちらは令和8年度も据え置きです。
ただし国民健康保険は世帯単位です。国保に入っているご家族それぞれについて同じ計算をし、世帯で合算した額が保険料になります。均等割が7割・5割・2割軽減される判定にも、世帯全員の所得を使います。

料率は市町村ごとに違いますが、医療分と後期高齢者支援分などを合わせておおむね1割前後のところが多いようです。申告分離課税を選んだ場合も、同じように算入されます。還ってくる税額より保険料の増えるほうが大きくなることがある、という注意書きは、自治体の案内にも載っています。
では、どうすればよいのか。分かれ目は「確定申告をするかどうか」です。源泉徴収ありの特定口座で受け取った配当や売却益は、確定申告をしなければ総所得金額等に入らないので、保険料の計算にも入りません。保険料だけを見れば、申告しないほうが有利になりやすいといえます。
ただし、申告しないと使えなくなるものもあります。株式の売却損との損益通算、翌年以降3年間への繰越控除、配当割額控除・株式等譲渡所得割額控除(すでに天引きされた住民税5%の精算)は、確定申告をして初めて受けられます。どちらが有利かは、配当の額・ほかの所得・損失の有無で変わります。保険料だけで決めず、税金と使える制度まで通しで見て判断してください。迷うときは、確定申告の前に市町村の国民健康保険の窓口や、税務署・税理士にご相談ください。
ただし、この「申告しなければ入らない」という扱いが、ずっと続く保証はありません。今回の改正は、まさにこの穴をふさぐための一歩です(確定申告をしていなくても金融所得を把握できるようにする)。まず後期高齢者医療で、2032年ごろの反映が見込まれています。国民健康保険や介護保険へ広げるかどうかは、次の段階の検討課題とされています。いまは使える選択ですが、数年単位では変わりうる前提で考えておくのが安全です。
ただし保険料には上限(賦課限度額)があります。令和8年度は、国民健康保険が年113万円(医療分67万円+後期高齢者支援分26万円+介護分17万円+新設の子ども・子育て支援分3万円)、後期高齢者医療が年87万1千円(基礎分85万円+子ども・子育て支援分2万1千円)です。すでに上限に達している方は、配当を申告しても保険料は増えません。
税金が減るほうを選んだら、保険料が増えていた。国民健康保険や後期高齢者医療に入っている方には、こういうことが起こり得ます。確定申告の前に、税額だけでなく保険料まで通しで見る必要があります。
では、結局どちらが得なのか。目安はこうです。総合課税で申告すると、配当控除でおおむね配当額の1割強の税金が戻ります。いっぽう国民健康保険料・後期高齢者医療の保険料は、その配当がまるごと計算に乗っておおむね1割増えます。戻る税金と増える保険料が、ほぼ同じ大きさなのです。ですから、国民健康保険や後期高齢者医療に入っている方は、申告しないほうが無難な場面が多いといえます。なお、課税所得がおおむね695万円を超える方は、配当控除を使っても総合課税のほうが税金の面でも不利になりやすい、というのが目安です。
なお、これは国民健康保険や後期高齢者医療の方の話です。会社員の健康保険料は毎月の給与と賞与から決まるので、配当を申告しても保険料は変わりません。
同じ法律に、もっと身近な改正が入っています
今回の法律には、金融所得のほかにも改正が入っています。ひとつだけ挙げておきます。
市販薬に近い薬について、薬剤費の4分の1が保険の対象外になります。対象は77成分・約1,100品目。鼻炎、胃痛、便秘、解熱・痛み止めなど、ふだんの受診でよく出る薬が並びます。令和9年3月の施行が想定されています。
こども、がん患者や難病の方、低所得の方などへの配慮は検討されるとされています。多くの方にとっては、金融所得の話より身近な変更です。くわしくは、あらためて1本書きます。
それでも、やることは大きく変わりません
制度は、こちらの都合とは関係なく動きます。決まったことに合わせて、そのつど身の振り方を考えるしかありません。
そのうえで、いま手元でできることを挙げるとすれば、この3つだと思います。
- NISAの枠は、これまでどおり使ってよい。非課税である以上、保険料の心配をする必要はありません
- 配当を確定申告するかどうかは、税金と保険料の両方を見て決める。とくに国民健康保険に入っている方
- 75歳が近いご家族がいるなら、頭の片隅に置いておく。保険料に反映されるのは2032年ごろですが、そのときは窓口負担の割合まで動きます
医療費の自己負担には上限があり、その仕組みも変わろうとしています。高額療養費に年間上限ができました。8月から翌年7月で数えて、53万円で止まりますにまとめました。
さいごに
まとめると、こうなります。
- NISAの利益は非課税なので、保険料の計算には入らない
- 議論されているのは「金融資産」ではなく「金融所得」。持っているだけでは上がらない
- 2026年5月29日に法律が成立し、6月5日に公布された。ただし対象は75歳以上の後期高齢者医療だけ
- 実際に保険料へ反映され始めるのは2032年ごろの見込み。後ろ倒しの可能性も資料に明記されている
- 現役世代にいま関係するのは、令和6年度からの「所得税と住民税で課税方式をそろえる」変更のほう
退職して国民健康保険に入る前後は、この配当の扱いがそのまま保険料に響きます。任意継続と国保、どっちが安いかもあわせてご覧ください。


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