会社を辞めたあとの健康保険は、任意継続と国民健康保険(国保)のどちらかを選ぶことになります。任意継続と国保、どっちが安いのか。ここが決まらないと、手続きを先に進めることができません。
先にお伝えすると、どっちが安いかは人によって逆になります。しかも、同じ人でも1年目と2年目で答えが変わってきます。
以前の記事で、退職後の健康保険には3つの選択肢があること、任意継続の期限が20日しかないことを書きました。今回はその続きで、「で、結局どっちが安いのか」の答え合わせをしたいと思います。
先に、答えを4つに分けます
長くなるので、結論から書きます。
- 退職時の給与がそれなりに高かった方 1年目は任意継続のほうが安くなることが多いです
- 会社の都合で辞めた方(倒産・解雇・雇止めなど) 1年目から国保のほうがはっきり安くなります
- 2年目 多くの方は国保のほうが安くなります。任意継続は途中でやめられます
- 家族の健康保険に入れてもらえる方 これがいちばん安いです。保険料はかかりません
なぜそうなるのかを、順番に見ていきます。
保険料の決まり方が、そもそも違います

任意継続の保険料は、退職したときの標準報酬月額に保険料率をかけて計算します。会社が半分払ってくれていた分がなくなるので、在職中に給与から引かれていた額のおよそ2倍になります。
ただし、この標準報酬月額には上限があります。協会けんぽの場合、令和8年度の上限は32万円です。退職時の給与がそれより高かった方は、ここで頭打ちになります。給与が高かった方ほど任意継続が有利になるのは、この上限があるからです。
国民健康保険の保険料は、前年の所得をもとに計算します。前年の1月から12月までの所得から基礎控除43万円を引いた額に、市町村ごとの率をかけます。ここで引けるのは基礎控除だけで、扶養控除や社会保険料控除は引かれません。所得税や住民税を計算するときより、料率をかける土台が広くなります。
そのうえに、加入した人数分の均等割と、世帯ごとの平等割が乗ります。任意継続は家族を何人扶養に入れても保険料が変わりませんが、国保にはそもそも扶養という考え方がありません。加入した人数の分だけ増えます。
つまり、任意継続が見ているのは退職したときの給与、国保が見ているのは去年の所得と世帯の人数です。見ているものが違うので、どちらが安いかは人によって変わってきます。
だから、2年目に答えが変わってきます

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
任意継続の保険料は、2年間ほとんど変わりません。退職したときの標準報酬月額で決まるので、そのあと収入が減っても下がらないからです(保険料率が改定されれば、その分だけは動きます)。
いっぽう国保は前年の所得で決まるので、加入して2年目からがくんと下がります。働いていた年の所得で計算される1年目は高く、収入が止まった年の所得で計算される2年目は安くなります。所得が一定以下の世帯には軽減もあります。
そして2022年1月から、任意継続は自分の申し出でやめられるようになりました。健康保険法に条文が加わっています。それ以前は、2年たつまでか、保険料を払い忘れて資格を失うまで、抜ける方法がありませんでした。
ですから、1年目は任意継続、2年目は国保という選び方ができます。
大阪市にお住まいの方の例で、並べてみます

条件をそろえないと比べられないので、前提を書きます。大阪市にお住まいの単身の方、39歳以下(介護保険料はかかりません)、2026年3月末に退職、退職時の標準報酬月額は30万円、前年の給与収入は400万円とします。そして、退職したあとは再就職もアルバイトもせず、収入がなかったものとします。
- 任意継続 月31,080円(年およそ37万3千円)
- 国保・1年目 年およそ39万2千円(月あたり約32,700円)
- 国保・2年目 年およそ2万8千円(月あたり約2,300円)
2年目の国保は、退職した年の所得で計算します。この例では1月から3月までの給与しかないので、所得割はかかりません。残る均等割と平等割も、所得が少ない世帯は7割が軽減されるので、この額になります。なお、2027年度の保険料率と軽減の基準は、まだ決まっていません(大阪府の公表は例年11月ごろと翌年3月です)。ここでは令和8年度の率がそのまま続いたものとして計算しています。なお、退職後にアルバイトなどで収入があれば、2年目の保険料はその分だけ上がります。上の金額は「収入がまったくなかった場合」の下限だとお考えください。
1年目は、任意継続のほうが年2万円ほど安いだけです。ほぼ互角と言っていい差です。
ところが2年目は、国保が年3万円を切ります。任意継続のままなら年37万円ですから、差は年およそ34万円になります。
2年間ずっと任意継続を続けると、およそ74万6千円。1年目だけ任意継続にして2年目に国保へ移ると、およそ40万1千円です。
なお、大阪府は令和6年度から府内で保険料率を統一しているので、府内ならどの市町村でも同じ所得・同じ世帯構成なら同じ額です。ほかの都道府県は市町村ごとに率が違うので、お住まいの窓口で確かめてください。
会社の都合で辞めた方は、国保が大きく下がります
もうひとつ、知らないと損をする制度があります。
倒産・解雇・雇止めなどで辞めた方(離職時に65歳未満)は、国保の保険料を計算するとき、前年の給与所得を100分の30とみなしてもらえます。病気やけがで働き続けられなくなって辞めた方も、対象になることがあります(雇用保険で「特定理由離職者」と扱われた場合です)。実際の3割の所得で計算してくれる、ということです。離職日の翌日が属する月から、翌年度の末日までが対象になります。
さきほどの例に当てはめると、1年目の国保は年およそ12万5千円になります。任意継続の年37万円と比べて、年25万円ほど安くなります。1年目から国保のほうがはっきり安い、ということです。
これは自動では適用されません。雇用保険の受給資格者証(または受給資格通知)の写しを持って、市区町村に届け出る必要があります。対象かどうかは受給資格者証に書かれた離職理由のコードで決まるので、まずはこれを手元に用意してください。
3つ目の道は、家族の扶養です
ご家族が会社の健康保険に入っているなら、その被扶養者にしてもらえることがあります。この場合、健康保険料はかかりません。扶養に入る人が増えても、ご家族の保険料は変わらないからです。費用でいえば、3つのうちこれがいちばん安くなります。
条件は収入です。年間収入が130万円未満(60歳以上の方や、障害厚生年金を受けられる程度の障害がある方は180万円未満)で、同居なら被保険者の年間収入の半分未満、別居なら仕送りの額より少ないこと。19歳以上23歳未満の方(配偶者を除く)は、2025年10月から150万円未満に広がりました。
ここでいう年間収入は、過去の年収ではなく、これから先1年間の見込みです。退職して収入が止まるなら、その時点から入れる可能性があります。
ただし、失業給付を受け始めると外れることがあります。基本手当の日額が3,612円以上になると、1年分に直したときに130万円を超える計算になるからです。受給が終われば、また入れます。
年金は別に考えてください。配偶者の扶養に入る場合は国民年金の第3号被保険者になれて保険料はかかりませんが、親や子などそれ以外のご親族は第1号のままで、国民年金保険料(令和8年度は月17,920円)がかかります。これは任意継続でも国保でも同じです。納めるのが難しいときは、退職した本人の前年の所得をゼロとして審査してもらえる免除の申請があります。
お金以外で、比べておきたいこと
保険料の額だけで決めると、あとで困ることがあります。4つ挙げます。
ひとつめは、傷病手当金です。まず押さえておきたいのは、任意継続でも国保でも、傷病手当金は出ないということです。任意継続は、健康保険法が傷病手当金の条文から任意継続被保険者を外しています。国保のほうは、法律上は条例で出すこともできる建前ですが、市町村の国保で実施しているところはありません(建設国保などの国保組合には、独自に出しているところがあります)。会社を辞めた時点で、病気で休んだときの所得補償は無くなる、と考えておいてください。ただし、退職する前からすでに傷病手当金を受けていて、退職日まで続けて1年以上その健康保険に入っていた方は、退職後も引き続き受け取れます。「資格喪失後の継続給付」という仕組みで、任意継続にするかどうかに関係なく、受けられるはずだった期間まで引き続き受けられます。任意継続にしないと傷病手当金が止まる、ということはありません。
ふたつめは、高額療養費の区分です。ひと月の医療費に上限がつく制度で、2026年8月から上限の決め方が変わったことは別の記事に書きました。上限の額そのものは、任意継続でも国保でも同じ表で決まります。違うのは、どの区分に入るかの決め方です。任意継続は標準報酬月額で、国保は世帯の前年の所得で判定します。ここで効いてくるのが、さきほどの上限32万円です。協会けんぽの任意継続では標準報酬月額が32万円で頭打ちになるので、在職中の標準報酬月額が53万円以上だった方は、区分が下がります。保険料が抑えられるうえに、医療費の上限まで下がるということです。ただし、勤め先が健康保険組合だった場合は話が別で、2022年1月から規約でこの上限を外せるようになり、実際に外している組合があります。その場合は退職時の標準報酬月額のままなので、区分も下がりません。ご自身の健康保険に確かめてください。
みっつめは、付加給付と健診です。勤め先が健康保険組合だった場合、医療費の自己負担がひと月2万円や3万円で止まる上乗せの給付を持っていることがあります。任意継続なら続けられますが、国保にはこの仕組みがありません。また、協会けんぽの生活習慣病予防健診は、任意継続でも受けられます(35歳以上)。国保にはこの健診がありません(40歳以上の特定健診は国保にもあります)。治療が続いている時期なら、ここが保険料の差より大きくなることがあります。
よっつめは、家族の人数です。任意継続は扶養に入れている家族が何人いても保険料が変わりません。国保は人数分かかります。ご家族が多いほど、任意継続に傾きます。
手順にすると、こうなります
1. 在職中に、任意継続の額を調べる 勤め先か、加入している健康保険に聞きます。協会けんぽなら、都道府県ごとの保険料額表が公開されているので、退職時の標準報酬月額が分かれば自分でも確かめられます
2. 市区町村に、国保の額を聞く 前年の所得が分かるものを持っていくと計算してくれます。会社の都合で辞めた場合は、そのことを必ず伝えてください
3. 20日以内に決める この期限を過ぎると、任意継続はもう選べません
4. 2年目に移りたくなったら、前月中に申し出る やめたい月の前月中に申し出ると、その翌月1日に資格がなくなります。いったん出すと、原則として取り消せません
5. 資格がなくなったら、14日以内に国保の届出をする 届出が遅れても加入日はさかのぼるので、保険料は同じだけかかります
6. 収入がなかった年も、所得の申告をする 国保の軽減は申請がいらず自動的にかかりますが、それは世帯全員の所得が分かっていることが前提です。確定申告や住民税の申告をしていれば足りますが、収入がなくてどちらもしていない方は、市区町村へ所得の申告が必要です(大阪市では7月中旬に申告書が送られてきます)。出さないままだと軽減がかからず、さきほどの例なら2万8千円で済むはずの保険料が9万円を超えてしまいます
もうひとつ、保険料を1日でも滞納すると、任意継続の資格はその時点で失われます。納付期日は毎月10日です。口座振替にしておくと確実です。
まとめ
任意継続と国保、どっちが安いか。答えは「人による」ですが、決め手ははっきりしています。
任意継続は退職したときの給与で決まり、国保は前年の所得と世帯の人数で決まります。だから、退職時の給与が高かった方は任意継続、前年の所得が低かった方や会社の都合で辞めた方は国保、家族が多い方は任意継続、という傾向になります。
そして、2年のあいだに答えが変わります。1年目は任意継続でも、2年目は国保のほうが安いことがほとんどです。2022年からは任意継続を途中でやめられるようになったので、1年目と2年目で選び直せます。
20日という期限は短いですが、比べるのに必要なのは2つの数字だけです。勤め先に1本、市区町村に1本。辞めると決まった時点で、まだ在職しているうちに聞いておいてください。
制度の細かいところは、加入している健康保険や、お住まいの市区町村によって違います。この記事は考え方の整理としてお読みいただき、実際の金額はご自身の窓口でご確認ください。

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