休職中の社会保険料は会社が立て替えます。復職した月の給与が、ほとんど残らないことがあります

草に覆われた線路が緑の木立の奥へ続いていく水彩画 お金と制度
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病気やケガで会社を長く休んでも、給与から引かれていた社会保険料は止まりません。ところが給与が出ないので天引きができず、多くの会社は本人が負担する分もいったん立て替えて納め、あとから請求します。

この請求が復職後にまとめて来ると、復職した月の給与が、ほとんど残らないことがあります。半年休めば、給与が月30万円ほどの方で、立て替えられた本人負担分は25万円を超えます。

休んでいる間は、健康保険から傷病手当金が出ます。おおよそ給与の3分の2です。ただし、そこからも社会保険料と住民税は出ていくので、手元に残るのはもとの給与の半分ほどです。

以前の記事では、傷病手当金と障害年金という「入ってくるお金」を書きました。今回はその裏側、出ていくお金の話です。

休職して給与がゼロになっても、社会保険料は止まりません

健康保険料と厚生年金保険料は、会社に在籍している限りかかり続けます。休職して給与がゼロになっても同じです。

健康保険法は、保険料を「各月につき」計算すると定めています。基準になるのは標準報酬月額で、その月の給与額ではありません。

しかも、休職しても標準報酬月額は下がりません。年の途中で変わるのは、昇給や降給で毎月決まった賃金そのものが動いたときに限られるからです。

つまり、休職前の給与を基準にした保険料が、給与ゼロの月にもそのままかかります。

家族の介護のために休むときも、同じように保険料は止まりません(介護休業に社会保険料の免除はありません)。

給与から引けないぶんは、会社が立て替えます

健康保険料と厚生年金保険料は、会社と本人が半分ずつ出し合います。まとめて納める義務を負っているのは会社で、本人が負担する分は、ふだんは毎月の給与から天引きして回収しています。

休職して給与がゼロになると、この天引きができません。それでも、会社が納める義務のほうはなくなりません。そのため多くの会社が、本人負担分もいったん立て替えて納め、あとから本人に請求する形をとっています。

請求のしかたは、大きく3通りです。

  • 休職中、毎月ご自身で会社の口座へ振り込む(毎月の負担は重いが、あとに残らない)
  • 復職したあとの給与から引かれる(何か月かに分けて引く会社と、復職した月にまとめて引く会社があります)
  • 賞与や退職金が出るときに、そこから精算する

どれになるかは、勤め先の就業規則や労使協定で決まります。法律でひとつに決められているわけではありません。

資金繰りがいちばん大きく動くのは、復職した月にまとめて引かれる形です。標準報酬月額30万円の方(40歳未満・大阪府の協会けんぽ)なら、本人負担は月におよそ4万3千円。半年休むと25万8千円ほどが積み上がり、これを一度に引かれると、その月の手取りはほとんど残りません。療養から戻った最初の月に、これが起きます。

賞与や退職金からまとめて引くには、決まりが要ります

「賞与から引いておきます」と言われたとき、会社は自由にそう決めてよいのでしょうか。ここには条文があります。労働基準法第24条です。

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。

労働基準法 第24条第1項

これを全額払いの原則といいます。給与や賞与から勝手に引いてはいけない、という決まりです。例外は2つだけで、同じ条文のただし書きにあります。

  • 法令に別段の定めがある場合(=ほかの法律に「引いてよい」と書いてある場合)
  • 書面による協定がある場合(=職場の労働者の過半数でつくる労働組合、なければ過半数を代表する人と、書面で取り決めている場合)

毎月の給与から社会保険料が引かれているのは、1つ目にあたります。健康保険法第167条と厚生年金保険法第84条が、報酬から控除してよいと定めているからです。

ただし、この2つの条文が認める範囲は限られています。給与から引けるのは「前月の標準報酬月額に係る保険料」、賞与から引けるのは「その賞与自体にかかる保険料」だけで、立て替えた何か月分かをまとめて引く場面までは書かれていません。

そうなると、根拠になるのは2つ目の書面の協定(賃金控除に関する労使協定)か、本人の同意ということになります。会社から書面へのサインを求められることがあるのは、このためです。自分の意思ではっきり同意したと認められれば有効だ、とした最高裁の判例もあります。

退職金も、この全額払いの原則の対象です。就業規則などで支給の条件が決まっている退職金は、法律上の「賃金」にあたるとされているからです(労働基準法第11条)。

ここは会社によって扱いが変わります。ご自身の勤務先の就業規則と、賃金控除に関する労使協定があるかどうかをご確認ください。休職前に、人事や総務へ確認しておいてください。

休職が長引いて、そのまま退職に至ることもあります。立て替え分の残りをどう精算するのかも、あわせて聞いておくと慌てずにすみます。退職したあとの健康保険は会社都合で退職したら、国民健康保険は前年の給与所得を3割とみなします。任意継続との差は年25万円にまとめました。

休職が決まったら、社会保険料の払い方を会社に確かめてください

1つ目は、社会保険料の本人負担分をどうやって払うかです。上の3通りのどれになるかを聞いてください。復職後にまとめて引かれるなら、復職した月の給与がいくらになるかまで聞いておくと、生活費の見通しが立ちます。

2つ目は、住民税をどうやって納めるかです。普通徴収に切り替わるなら、市区町村から納付書が届きます。年4回払いなので、1回あたりの額が大きく見えます。一括徴収なら、休職前の最後の給与から引かれます。

3つ目は、傷病手当金の申請を誰がいつ出すかです。申請書には会社の証明欄と医師の証明欄があります。誰がどの順番で進めるかを先に決めておくと安心です。

4つ目は、休職中に会社から給与や手当が出るかどうかです。就業規則で給与の一部を支払う会社があります。ただしその場合、傷病手当金は満額になりません。給与が出ている間は支給されず、給与のほうが少ないときに限って差額が出るからです。逆に、勤め先が健康保険組合なら、組合独自の上乗せ(付加給付)があることがあります。こちらは傷病手当金を減らしません。協会けんぽにはない制度です。

産休・育休には免除があります。病気の休職にはありません

産前産後休業・育児休業では健康保険料と厚生年金保険料が免除され、病気やケガによる休職では免除されないことを、左右に並べて比べた図

ここは、いちばん誤解されやすいところです。産前産後休業と育児休業の期間は、健康保険料も厚生年金保険料も免除されます。本人負担分だけでなく、会社負担分もです。しかも納めたものとして扱われるので、将来の年金額も減りません。

これは健康保険法と厚生年金保険法に、条文としてはっきり書かれた制度です。そして、書かれているのは産休と育休だけです。病気やケガによる休職について、同じ免除の規定はありません。

「働いていないのだから止まるだろう」と思いがちですが、止まりません。だからこそ、前の章の立て替えが起きます。

2026年4月から加わった子ども・子育て支援金も、休職中は止まりません

2026年4月分の保険料から、子ども・子育て支援金の徴収が始まりました。児童手当の拡充などの財源を、企業も含めた全世代で負担する仕組みです。

会社員が入る被用者保険(協会けんぽ・健康保険組合・共済組合)では全国一律で0.23%。標準報酬月額と賞与にかかり、健康保険料と同じように会社と半分ずつ負担します。標準報酬月額30万円の方なら、全額で月690円、本人負担は345円です。給与明細では健康保険料に含まれて1行のままの会社もあれば、別の項目が立つ会社もありますが、法律では両方を合算した率で計算すると定められているので(健康保険法第156条)、引かれている中身は同じです。

大事なのはこれも休職中には止まらないことです。健康保険料と一体で計算されるので、会社が立て替える額にも、この分が含まれています。なお、この支援金は国民健康保険や後期高齢者医療でも同じ時期から始まっていて、国民健康保険は会社が半分を持つしくみがないので全額が世帯の負担です。

住民税は、去年の所得にかかってきます

住民税が前年1月から12月までの所得で決まり、その翌年6月から翌々年5月にかけて納めることを、3年ぶんの時間軸で示した図

もうひとつ、休職中の家計に重くのしかかるのが住民税です。前年の1月から12月までの所得に対して計算され、給与から天引きされる場合は、翌年6月から翌々年5月にかけて12回に分けて納めます。

つまり、休職している今年の税額を決めているのは、元気に働いていた去年の所得です。今年の収入が減っても、今年納める住民税が下がることは原則としてありません(生活が著しく苦しいときの減免制度を設けている自治体もあります)。

休職して最初の1年がいちばん重いのは、このためです。

裏を返せば、来年の住民税は下がります。これはふるさと納税にも関わります。その年に休むと、自己負担2,000円で収まる寄附額の上限も下がるためです。理由と数え方はふるさと納税の締切は12月31日。上限はあなたの住民税で決まりますにまとめました。

給与から天引きできなくなると、会社は翌月10日までに市区町村へ届け出をします。休職中は給与が出ないので、自分で納める普通徴収に切り替わるのが基本です。休職前の最後の給与や賞与から引ける分があるときは、一括徴収になることもあります。

逆に、止まるものもあります

出ていくものが全部続くわけではありません。

所得税は止まります。給与が支払われなければ、源泉徴収するものがないからです。傷病手当金そのものにも税金はかかりません。健康保険法に「租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金品を標準として、課することができない」と定められています。

雇用保険料も止まります。こちらは実際に支払われた賃金に率を掛けて計算するので、賃金がゼロなら保険料もゼロです。

つまり、休職中に出ていき続けるのは社会保険料と住民税のふたつです。会社が立て替えるのは、このうち社会保険料のほうです。

標準報酬月額30万円の方が1か月休むと、手元にいくら残るか

会社に確かめた結果、社会保険料を毎月ご自身で振り込むことになった場合の、1か月の出入りです。標準報酬月額30万円、大阪府の協会けんぽに加入する40歳未満の方が、まるまる1か月休職した場合。傷病手当金は最初の3日間が待期期間なので、休職2か月目以降を見ています。

傷病手当金20万円から厚生年金保険料・健康保険料・住民税が順に引かれ、手元に14万3千円ほどが残ることを示した階段状の図

入ってくる傷病手当金は、約200,000円です。30万円を30で割った1万円に3分の2を掛けて、1日あたり6,667円。その30日分です。

出ていくほうは、健康保険料が15,195円、子ども・子育て支援金が345円、厚生年金保険料が27,450円。社会保険料だけで42,990円です。支援金は健康保険料と一緒に引かれるので、図では2つを合わせて15,540円としています。

ここに住民税が乗ります。前年の年収が400万円ほどだった方(単身)なら、住民税はおよそ年17万円、月に直すと1万4千円ほど。扶養家族の人数などで変わるので、ご自身の額は毎年6月ごろの通知書で確かめてください。

合わせると、出ていくお金はおよそ5万7千円。手元に残るのは14万3千円ほどです。もとの給与30万円に対して半分ほど。「3分の2が出ます」という言葉から受ける印象とは、ずいぶん違います。

毎月振り込まず、会社に立て替えてもらう場合は、手元に残るのが18万6千円ほどに増えます。そのかわり立て替え分は消えたわけではなく、復職後にまとめて請求されます。

40歳から64歳までの方は、これに介護保険料が加わります。健康保険料と合わせた本人負担が17,625円になるので、出ていくお金はさらに2,430円増えます。

まとめ

休職中の社会保険料は止まりません。給与から天引きできないので、多くの会社がいったん立て替えます。戻し方は、毎月の振り込み・復職後の給与・賞与や退職金のどれかです。どれになるかは会社によって違うので、休職に入る前に確かめてください。

賞与や退職金からまとめて引くには、労働基準法24条のただし書きにある決まり(法令の定め、または書面による労使協定)が要ります。

住民税は去年の所得にかかるので、休職して最初の1年がいちばん重くなります。2026年4月からは、そこに子ども・子育て支援金も加わりました。

いざというときのお金を考えるときは、「給与の3分の2が入る」ではなく「もとの給与の半分くらいが残る」を出発点にしてください。そのうえで、復職した月にまとめて引かれる可能性まで見ておくと、より確かです。

働けない間のお金の記事

この記事は、働けない間のお金をまとめた6本のうちの1本です。あわせてどうぞ。

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