休職中の住民税が払えないときは、1年待ってもらえます。出ていくお金を減らす5つの申請

干潟の海辺に置かれた木のベンチと、ピンクの扉の小屋を描いた水彩画 お金と制度

病気やけがで長く休むことになると、収入は止まります。けれど、支払いのほうは止まりません。社会保険料は休んでいるあいだも引かれ続けますし、住民税は前の年の所得にかかるので、収入がなくなった年にもそのまま請求が来ます。

以前の記事では、この時期に入ってくるお金(傷病手当金と障害年金)を書きました。今回はその反対側、出ていくお金の話です。

待ってもらう。軽くしてもらう。立て替えずに済ませる。そういう仕組みは公的な制度として用意されています。ただし、どれも申請しないと適用されません。黙っていると、元気に働いていたときと同じ請求書が届きます。

先に、5つ挙げます

出ていくお金を減らす5つの窓口
出ていくお金を減らす5つの窓口
  • 住民税 … 市区町村に申請すると、1年以内の期間を限って待ってもらえます。分割にもできます
  • 国民年金の保険料 … 免除か納付猶予を申請できます。10年以内なら、あとから納め直せます
  • 国民健康保険料 … 減免と徴収猶予があります。基準は市区町村ごとに違います
  • 医療費 … 窓口で払う額を、はじめから上限までにとどめられます
  • 住宅ローン … 返済の形を変えてもらえることがあります

このうち2と3は、会社を辞めて国民年金・国民健康保険に移った方の制度です。在籍したまま休職している方は会社の保険のままなので使えません(在籍中の保険料は休職中の社会保険料は会社が立て替えますに書きました)。1・4・5は、休職中でも退職後でも同じように使えます。

住民税は、1年待ってもらえます

住民税は前の年の所得で決まるので、収入が止まった年にいちばん重くのしかかります。ここに、地方税法が用意している仕組みがあります。徴収猶予です。

条文は、猶予できる場合を5つ挙げています。その2つ目がこれです。

納税者若しくは特別徴収義務者又はこれらの者と生計を一にする親族が病気にかかり、又は負傷したとき。

地方税法 第15条第1項第2号

ご本人の病気やけがは、そのまま条文に書かれた事由です。生計をともにするご家族の病気でも構いません。特別な事情を訴えに行くのではなく、条文にある事由に当てはまると示せばよい、ということです。

待ってもらえるのは1年以内。延長してもあわせて2年が上限です。同じ条文に、猶予した金額を分割して納めさせることができるとも書かれています。まるごと先送りにするのではなく、月々払える額に割り直してもらう使い方ができます。

大きいのは延滞金です。病気・負傷を理由とする猶予なら、法律は猶予した期間の延滞金を全額免除すると定めています。令和8年中の延滞金は、納期限の1か月後からは年9.1%。放っておいて滞納になるのとでは、ここが違います。

手続きは、お住まいの市区町村の税務担当へ。申請書に、財産の目録と収支の状況を書いた書類、それに診断書などを添えます。審査では、病気やけがという事実に加えて、「一時に納付することができないと認められる」ことが必要です(地方税法第15条)。病気であることは入口で、手元に預貯金があると、そこから納められると見られて、認められないことがあります。なお、診断書は健康保険がきかず、費用も安くありません。何を添えれば足りるかは市区町村で違うので、書いてもらう前に窓口へ相談してみてください。

落とし穴を3つ。ひとつ、猶予は免除ではありません。待ってもらうだけで、税額そのものは減りません。ふたつ、金額によっては担保を求められます(要らない場合の線引きは、市区町村の条例で決まります)。みっつ、納期限が来る前に相談してください。滞納してからだと別の仕組み(換価の猶予)に変わり、延滞金の免除も半分にとどまります。

国民年金の保険料は、免除にできます

猶予・免除・減免は、どう違うか
猶予・免除・減免は、どう違うか

会社を辞めて国民年金に移ると、保険料は令和8年度で月17,920円。収入がない時期に、この額が毎月かかります。

ここには免除納付猶予があります。前の年の所得で審査され、全額免除の基準は「(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円」。働いていた方の前年所得では、まず通りません。

そこで使うのが退職(失業)等による特例免除です。退職した本人の前年所得をゼロとみなして審査してもらえます。用意するのは、失業の事実を確認できる書類——雇用保険の離職票か受給資格者証の写しです。日本年金機構が挙げている必要書類に、辞めた理由が自己都合か会社都合かによる区別は書かれていません。ご自身の場合に使えるかは、年金事務所か市区町村の国民年金の窓口へ相談してみてください。

免除と納付猶予は、名前は似ていますが中身が違います。全額免除なら保険料はゼロで、その期間も全額納めた場合の2分の1として老齢基礎年金の額に反映されます。納付猶予(20歳以上50歳未満)も保険料はゼロですが、年金額には反映されません。ただし、納付猶予の審査で見るのは本人と配偶者の前年の所得だけで、世帯主の所得は問われません(ここでいう所得は、受け取った額そのものではなく、給与なら給与所得控除を引いたあとの額です)。免除のほうは、本人と配偶者に加えて世帯主の前年所得も見られます。同居の親が世帯主で、その親に収入があるために免除が通らない、という場合でも、猶予なら使えることがあります。

どちらも、10年以内なら追納できます。追納した保険料は社会保険料控除の対象になるので、働き始めて所得が戻った年に納めると、その年の所得税・住民税が下がります。

落とし穴を4つ。免除された保険料は10年以内なら追納できますが、3年度目以降に納めると加算がつきます。数え方は、承認された期間の翌年度が1年度目です。令和8年度分を免除してもらったなら、令和9年度と令和10年度のうちに納めれば当時の額のまま。令和11年度に入ってからだと加算がつきます。さかのぼって申請できるのは2年1か月前まで特例免除が使えるのは、失業した日(退職日の翌日)が属する月の前月から、翌々年の6月までです。6月で切れるのは、国民年金の免除が「7月から翌年6月まで」をひと区切りとして審査されるからで、申請書も1枚でこの1年度分です。年度が変わるところで、翌年度分としてもう一度申請が要ります。何年も続けて使えるものではありません。一部免除は、残りを納めないと未納扱いになります。

未納のまま放っておくのが、いちばん不利になります。免除と猶予の期間は年金を受けるための期間として数えられますが、未納の期間は数えられません。お金の面でも差がつきます。督促状が届いて、そこで指定された期限も過ぎると、延滞金がかかります。令和8年の割合は、納期限の翌日から3か月までが年2.8%、それを過ぎると年9.1%。住民税の延滞金と同じ割合です。免除や納付猶予が認められた期間は、そもそも納める義務が生じないので、延滞金の話にもなりません。申請すれば保険料は止まり、そのままにしていると延滞金が課されることとなります。

国民健康保険料の減免は、市区町村ごとに違います

国民健康保険にも、保険料を軽くする仕組みがあります。法律の条文は、ずいぶんあっさりしています。

市町村及び組合は、条例又は規約の定めるところにより、特別の理由がある者に対し、保険料を減免し、又はその徴収を猶予することができる。

国民健康保険法 第77条

「条例の定めるところにより」。これがこの制度のすべてです。減免するかどうか、どんな基準で、どれだけ減らすかは、市区町村が条例で決めています。全国一律ではありません。

どれくらい違うか、2つ並べてみます。

  • 大阪市 … 所得が減る原因が起きた月以降の世帯の見込み所得が、前年の10分の7以下(3割以上の減少)になる世帯が対象。減少率に応じて、所得割を30%から100%まで段階的に減免します
  • 鈴鹿市前年の所得と比べて3割以上減る見込みで、かつ毎月の収入金額が減免基準額以下であること。減免額は、その基準額と毎月の平均収入との差から計算します

入口の「3割減」は同じでも、大阪市は減少率で決め、鈴鹿市は収入の水準との差で決めます。同じだけ減っても、減る額は住む市区町村で変わります。

徴収猶予も同じ条文にあります。ここも自治体ごとで、たとえば大阪市の国民健康保険料の猶予は6か月が限度。住民税の1年とは違います。

なお、倒産・解雇・雇止めなどで辞めた方には、全国一律の軽減が別にあります。そして、減免も猶予も申請しないと始まりません。自動でかかるのは7割・5割・2割の軽減だけで、それも世帯全員の所得が申告されていることが前提です。収入がなかった年ほど、申告を忘れないでください。

医療費は、マイナ保険証の登録を確かめるところから

いまはマイナ保険証が基本で、従来の健康保険証が使えた猶予期間も2026年7月31日で終わりました。マイナ保険証を使う方は、限度額の手続きが要りません。必要なのは、健康保険証としての利用登録が済んでいるかを確かめておくこと。それだけです。

なぜ確かめておくのか。ひと月の自己負担には上限がありますが、いったん窓口で払ってから戻してもらう形だと、戻ってくるのはたいてい3か月ほど先だからです。収入が止まっているあいだに、3か月ぶんを立て替えなければならないことになります。

マイナ保険証を使うと、加入している健康保険の限度額の区分が医療機関に伝わり、その場で上限までの支払いになります。証を持ち歩く必要も、申請書を出す必要もありません。

限度額適用認定証の申請が要るのは、次の2つの場合です。住民税が非課税の世帯にあたる方(マイナ保険証を使っていても、「限度額適用・標準負担額減額認定証」の申請が要ります)②マイナ保険証を使えないとき(マイナ保険証を持たず資格確認書で受診する方、オンライン資格確認を導入していない医療機関にかかるとき)。

申請先は、会社の健康保険なら協会けんぽの都道府県支部か健康保険組合、国民健康保険なら市区町村の窓口です。協会けんぽは郵送で受け付けます(紙の申請書を、加入している支部へ送る形です。受け付けから1週間ほどで、指定の住所に届きます)。投函はご家族でもできます。健康保険組合や国民健康保険では、郵送や代理の扱いが加入先・市区町村ごとに決まっているので、そこは確かめてください。

急ぐ理由は、さかのぼれないからです。認定証が使えるのは、申請書を受け付けた月の1日から。月が変わってしまうと、前の月に払った分は、あとから戻してもらう形に戻ります。入院した日に窓口へ走る必要はありませんが、手続きは、月が変わる前に済ませておきましょう

なお、申請書を出す先は、加入している健康保険(協会けんぽの支部・健康保険組合・市区町村)です。協会けんぽは窓口へ持ち込んでも即日の交付はなく、後日の郵送になります。

ただし、病院の医療ソーシャルワーカー(MSW)には相談できます。厚生労働省の業務指針でも、患者や家族の経済的な問題の解決・調整を援助すること、生活に困っている方へ使える行政のサービスを紹介・案内することが、その業務に挙げられています。申請書の書き方や、ほかに使える制度がないかを一緒に整理してもらえます。提出先が健康保険であることは変わりませんが、入院が決まったときや、入院中で動きにくいときは、相談してみてください。

入院中の食事代についても、ひとつ知っておいてください。食事代は高額療養費の対象外で、1食あたりの定額を自分で払います。令和8年6月からは1食550円。1日3食・30日なら、月およそ49,500円です。これが下がるのは、原則として住民税が非課税の世帯の方だけで、申請すれば誰でも下がるものではありません(このほかに、指定難病の方などへの別枠の減額があります)。非課税の世帯の方が上の認定証を出すと1食270円(入院が90日を超えると220円)になり、月およそ24,300円まで下がります。証を出さなければ、非課税の世帯でも550円のままです。

ここで、間違えやすいところがあります。さきほどの住民税の徴収猶予を受けていても、食事代は下がりません。猶予は、課税されたうえで納めるのを待ってもらう仕組みで、税額そのものは残っているからです。高額療養費のいちばん低い区分も同じ考え方で、猶予では下がりません。ただし、休んだ年は所得が下がるので、翌年度に非課税の世帯になることがあります。たとえば令和8年に休職して所得が下がれば、令和9年度は非課税の世帯になることがあり、その令和9年度に入院するなら、認定証を出して食事代を下げられます

住宅ローンは、返済の形を変えられます

住宅ローンは、たいてい家計でいちばん大きな固定費です。毎月の返済額を下げられるかどうかで、療養に充てられる時間も、そのあいだの心のもちようも変わります。

金融庁の統計では、令和7年4月から令和8年6月までに住宅ローンの条件変更を申し込んだのが9,414件、実行されたのが7,691件、断られたのが536件。実行と謝絶で数えると、93.5%が実行されています。相談すれば通ることのほうが多い、というのが公表された数字です。

住宅金融支援機構は、離職や病気で返済が難しくなった方向けのメニューを公開しています。返済期間の延長は最長15年。現に失業中の方、または収入が20%以上減った方は、これに加えて元金の支払いを止めて利息だけを払う期間(最長3年)を設けられます。ボーナス返済の取りやめもできます。手数料はかかりません。申し出るのは機構ではなく、返済中の金融機関です。民間の住宅ローンでも、条件変更の相談は受け付けています。

正直に書いておくと、返済期間を延ばせば総返済額は増えます。機構自身が「毎月の返済額は少なくなりますが、返済期間が延びるため総返済額は増えます」と明記しています。

もうひとつ、団体信用生命保険を確かめてください。ふつうの団信は、亡くなったときや、所定の重い障害が残ったときに、残りの返済が不要になる設計です(どの状態が対象になるかは、契約によって違います)。がん・急性心筋梗塞・脳卒中や要介護まで広げた特約もありますが、借りるときにしか付けられないのが原則です。いま付いているかどうかは、契約のときの書類で確かめられます。

そして、手厚い特約には、その分の費用がかかります。【フラット35】では、団信の費用を毎月の返済に組み込む形になっていて、新3大疾病付の機構団信を選ぶと、借入金利に年0.24%が上乗せされます(2026年8月資金受取分)。民間の住宅ローンでも、金利への上乗せという形が多く見られます。まず確かめたいのは、いま付いている保障のほうです。特約が付いていても、保険金は自動では下りません。がんや脳卒中などで所定の状態にあてはまったときに、借りている金融機関へ自分から請求してはじめて、残りの返済が不要になります。診断がついた時期に、契約のときの書類を一度見ておいてください。

5つを合わせると、月にいくら止まるか

単身・前年収入400万円の方は、いま出ていくお金が月にいくら減るか
単身・前年収入400万円の方は、いま出ていくお金が月にいくら減るか

条件をそろえないと比べられないので、前提を書きます。単身の方、前の年の給与収入400万円、体調を崩して会社を辞め、療養に入ったとします。

  • 住民税 … 年およそ17万円、月に直して14,000円ほど。徴収猶予が認められれば、この分が先送りになります
  • 国民年金保険料 … 月17,920円。退職による特例免除で全額免除が通れば、ゼロになります
  • 国民健康保険料 … 減免が通れば、所得割の部分が減ります。額は市区町村によって変わります
  • 医療費 … マイナ保険証(または限度額適用認定証)で、窓口での立て替えがなくなります

住民税と国民年金だけで、いま出ていくお金が月およそ32,000円減ります。

ただし、中身は同じではありません。国民年金の17,920円は納めなくてよくなりますが、住民税の14,000円は先送りにしただけです。1年後には払うことになりますし、そのころ収入が戻っているとは限りません。ただ、休んだ年の所得は下がるので、翌年度の住民税は大きく下がります。負担が大きいのは、最初の1年です。

産業医として、ひとつだけ

働き盛りの方が、ある日突然、病気と向き合うことになる。その場面に、私は何度も立ち会ってきました。

そのとき頭の中にあるのは、たいてい治療のことと、お仕事の見通しのことです。税や保険料の手続きまでは、なかなか回りません。

ところが、ここに挙げた5つの多くは、申請した月より前にはさかのぼれません。いちばん動けない時期に、いちばん早く動く必要がある。制度としては、なかなか難しいところです。

だからこそ、休職や退職が決まったその日に、市区町村の窓口へ一度相談してみてください。ご家族に代わりに行っていただいてもかまいません。

まとめ

  • 住民税は、病気・負傷を理由に1年以内(延長してあわせて2年まで)待ってもらえます。分割にもでき、猶予された期間の延滞金は全額免除されます
  • 国民年金の保険料は、退職による特例免除なら前年の所得をゼロとみなして審査されます。全額免除でも年金額に2分の1が反映され、10年以内なら追納できます
  • 国民健康保険料の減免は、条文が「条例の定めるところにより」なので、基準は市区町村ごとに違います
  • 医療費は、限度額適用認定証かマイナ保険証で、窓口の立て替えがなくなります。申請した月より前にはさかのぼれません
  • 住宅ローンは、返済期間の延長や元金の据置ができます。ただし総返済額は増えます

5つに共通するのは、申請しないと始まらないことです。そして多くは、申請した月より前にはさかのぼれません(国民年金の免除だけは、2年1か月前までさかのぼれます)。猶予は免除ではありません。待ってもらったお金は、あとで払う必要があります。

制度の細かいところは、加入している健康保険や、お住まいの市区町村によって違います。この記事は考え方の整理としてお読みいただき、実際の判断はご自身の窓口でご確認ください。

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