退職金と確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)を一時金で受け取ると、どちらも同じ控除を使います。退職金にかかる控除で、正式には退職所得控除といいます。その計算そのものは前の記事に書きました(退職金は、申告書を提出しないと20.42%が引かれます)。今回は、両方を受け取る方に向けた話になります。企業型DCのある会社に勤めていた方と、iDeCoを続けてきた方が当てはまります。受け取る順番と間隔で、退職所得控除の額が変わります。いずれも2026年9月時点で確かめています。
同じ年に両方受け取ると、いちばん長い期間で退職所得控除を計算します
同じ年に2か所以上から退職手当等を受け取る場合は、それぞれの期間のうちいちばん長い期間をもとに勤続年数を出します。ただし、それで終わりではありません。短いほうの期間が、長いほうからはみ出していたら、はみ出した分を足します(所得税法施行令第69条第1項第3号)。1年未満の端数は1年に切り上げます(同条第2項)。
支払済の他の退職手当等の勤続期間と今回の退職手当等の勤続期間のうち最も長い勤続期間により勤続年数を算出します。ただし、その最も長い期間以外の期間のうちにその最も長い期間と重複していない期間がある場合は、その重複しない部分の期間を最も長い期間に加算して勤続年数を計算します。この勤続年数に1年に満たない端数があるときは、1年に切り上げます。
国税庁 No.2735「同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき」
確定拠出年金の加入期間のほうが長ければ、そちらが使われます。勤続10年の会社を退職し、同じ年にiDeCoの一時金(加入20年)を受け取るとします。会社に勤めた10年が、iDeCoの20年のなかに入っている場合、勤続年数は20年。退職所得控除は勤続10年ぶんの400万円ではなく、20年ぶんの800万円になります。
はみ出していれば、そのぶんが足されます。自営業のころにiDeCoへ20年加入し、そのあと会社に10年勤めて60歳で退職した方(会社に入ってからは掛金を止めていた方)なら、20年と10年はまったく重なっていません。合わせて30年で、退職所得控除は1,500万円になります。「長いほうを見るだけ」ではなく、「長いほう+はみ出した分」になります。
加入期間として数えるのは、掛金を払っていた期間です
確定拠出年金の期間は、企業型とiDeCoを合わせて数えます。企業型の加入者期間に、それと重なっていないiDeCoの加入者期間を足したものです。ただし、数えるのは掛金を払っていた期間で、運用だけをしていた期間は入りません(同第69条第1項第2号)。転職・退職をすると、iDeCoは届け出が必要になります
では、自分が掛金を払っていた期間は、どこで分かるのでしょうか。年に1回届く「お取引状況のお知らせ」には、通算加入者等期間と、加入・喪失の履歴が載っています。ただし通算加入者等期間は、掛金を止めて運用だけをしていた期間も足した期間なので、退職所得控除の計算に使う期間とは一致しません。掛金を払っていた期間を知りたいときは、記録を管理している会社(記録関連運営管理機関)のコールセンターか、加入者向けのサイトで確認してください。企業型DCも同じです。窓口が分からない場合は、勤務先の担当部署に聞いてみてください。

年を分けるなら、確定拠出年金が先で10年、退職金が先で20年あけると、差し引かれません
年を分けた場合は、重なっている期間ぶんが退職所得控除から差し引かれます。差し引かれずに済む間隔は、順番によって違います(所得税法施行令第70条第1項第2号)。ただし、先に受け取った額が小さいときは例外があります。この記事の後半でご説明します。
| 先に受け取るもの | あとに受け取るもの | 必要な間隔 |
|---|---|---|
| 確定拠出年金の一時金 | 退職金 | 前年以前9年内だと差し引かれる=10年 |
| 退職金 | 確定拠出年金の一時金 | 前年以前19年内だと差し引かれる=20年 |
確定拠出年金が先のほうは、2026年1月1日以後に受け取った一時金から、5年が10年に延びました。それより前に受け取っていた場合は、5年のままです。
20年をあけられるのは、55歳までに退職金を受け取った方です
確定拠出年金の一時金を受け取れるのは、60歳からです(確定拠出年金法第33条第1項)。ただし60歳から受け取るには、通算加入者等期間が10年以上あることが必要です。10年に満たない方は、期間に応じて61歳から65歳までの間で受け取れるようになります。
確定拠出年金の一時金は、75歳までに請求することになっています(確定拠出年金法第34条。iDeCoは同法第73条で準用しています)。そこから20年を逆算すると、55歳です。55歳までに退職金を受け取っていれば、75歳で確定拠出年金を受け取る形で20年をあけられます。早期退職や転職、役員の退任で退職金を受け取った方が当てはまります。
一方で、60歳の定年まで勤めて退職金を受け取る方は、20年をあけることはできません。20年後は80歳で、75歳を越えてしまうからです。56歳で退職金を受け取った場合も、75歳までの間隔は19年。「前年以前19年内」に入るので、退職所得控除の額が差し引かれます。
10年のほうも、60歳で確定拠出年金を受け取ってから、70歳まで勤めて退職金を受け取る形になります。どちらの間隔も、選べる方は多くないと思います。

額の大きいほうを先に受け取ると、税金が少なくなります
前提をそろえて計算してみます。勤続35年で退職し、確定拠出年金の一時金は2,000万円。加入期間も35年で、会社に勤めながら企業型DCに入っていたので、全部が勤続期間と重なります。なお、企業型DCを始める前の退職金制度や確定給付企業年金の資産を移した場合は、移す前の勤務期間も加入期間に入ります(所得税法施行令第69条第1項第2号のかっこ書き)。この例は、その形を前提にしています。
35年ぶんの退職所得控除は1,850万円になります。60歳の定年で退職金を受け取る方に20年はあけられませんから、同じ年に両方受け取るか、1年あけて年を分けるかになります。年を分けるなら、どちらを先に受け取るかでも結果が変わります。ここでは①同じ年に両方、②退職金が先で翌年に確定拠出年金、③確定拠出年金が先で翌年に退職金、の3つで計算してみます。
退職金が1,500万円の場合(退職所得控除1,850万円を使い切りません)
- ①同じ年に両方……収入は合計3,500万円、退職所得控除は35年ぶんの1,850万円。差額1,650万円の半分で、課税の対象は825万円。退職金と確定拠出年金にかかる税金は合わせて約211万円になります。
- ②退職金が先……1年目の退職金1,500万円は退職所得控除1,850万円より少ないので、税金は0円。2年目の確定拠出年金は、先に受け取った額が小さいので重なっている期間を30年とみなし(この記事の後半でご説明します/所得税法施行令第70条第2項)、退職所得控除は1,850万円−1,500万円で350万円。課税の対象は825万円で、税金は約211万円になります。
- ③確定拠出年金が先……1年目の確定拠出年金2,000万円は退職所得控除1,850万円を使い切ります。課税の対象は75万円で、税金は約11万円。2年目の退職金は、重なった35年ぶんが差し引かれて退職所得控除が最低額の80万円になり、課税の対象は710万円で税金は約173万円。合わせて約184万円になります。
- ③がいちばん少なく、①②より約27万円少なくなります。①と②が同じ額になるのは、②で差し引かれるのが、退職金に実際に使った1,500万円ぶんまでだからです。差し引かれずに済んだ350万円は、確定拠出年金のほうで使えます。
退職金が2,000万円の場合(退職所得控除1,850万円を使い切ります)
- ①同じ年に両方……収入は合計4,000万円、退職所得控除は1,850万円。課税の対象は1,075万円で、税金は合わせて約313万円になります。
- ②退職金が先・③確定拠出年金が先……どちらも2,000万円で同じ形になります。1年目に受け取るほうは退職所得控除1,850万円を使い切り、課税の対象は75万円で税金は約11万円。2年目に受け取るほうは退職所得控除が最低額の80万円になり、課税の対象は960万円で税金は約263万円。合わせて約274万円になります。
- 年を分けたほうが、約39万円少なくなります。この場合は、どちらを先にしても同じです。

先に受け取るほうで、退職所得控除を使い切れるかどうかで決まりました。使い切れると、あとに受け取るほうの退職所得控除が最低額の80万円になり、そのぶん課税の対象が減ります。課税の対象が2年に分かれるので、税率も下がります。つまり、額の大きいほうを先に受け取ると、税金は少なくなります。同じ年にまとめても、税金は減りません。
- 確定拠出年金のほうが大きい方……確定拠出年金を先に受け取ると、退職金の退職所得控除に最低額の80万円がつきます
- 退職金のほうが大きい方……退職金を先に受け取ると、確定拠出年金の退職所得控除に最低額の80万円がつきます
- 同じ年にまとめると、この80万円はつきません
退職所得控除から差し引かれる額は、1年あけても19年あけても同じです
年を分けるとき、あとから受け取る確定拠出年金の退職所得控除は、加入期間ぶんの額から、退職金と重なっている期間ぶんの額を差し引いて計算します(所得税法第30条第6項第1号、所得税法施行令第70条第1項第2号)。差し引かれるのは重なっている期間ぶんの額なので、1年あけても19年あけても、差し引かれる額は同じです。ここでは、退職金で退職所得控除を使い切った場合で見ます。この記事の例では、加入35年ぶんの1,850万円から、重なった35年ぶんの1,850万円が差し引かれて0円になるので、最低額の80万円になります。20年(確定拠出年金が先なら10年)あけたときに初めて、差し引かれなくなります。「少しあければ、差し引かれる額が少し減る」という決まりにはなっていません。

いまの話は、退職所得控除から差し引かれる額についてです。もとになる退職所得控除そのものは、あいだに掛金を払い続ければ、加入期間が延びたぶん増えます。加入期間が20年を超えている方は、延びた1年につき70万円ずつ増えます(20年までの1年あたり40万円ではありません)。新しく払った期間を取り出して、40万円×年数で数え直すのではありません。加入期間の全体(この例では35年に延びた年数を足したもの)で計算してから、退職金と重なった35年ぶんを差し引きます。延びた年数は36年目以降として数えるので、1年あたり70万円になります。ただし、差し引いたあとの額が80万円に満たないときは80万円になるので、この例では36年目もまだ80万円のままです。実際に増えるのは、あけて2年目(加入37年目・140万円)からです。ただし、掛金を払えるのは国民年金に加入している方です。会社員として厚生年金に加入していれば65歳になるまで、それ以外の方は60歳になるまでです。60歳から65歳になるまで払えるのは、国民年金に任意加入している方です。2026年12月1日からは、国民年金に加入していない方も、老齢基礎年金と、iDeCoの老齢給付金(iDeCoから受け取るお金です)を受け取り始めていなければ、70歳になるまで払えるようになります。56歳で退職された方なら、いまの決まりで長くて9年、2026年12月からは長くて14年です。

ただし、先に受け取った額が小さいときは、例外があります。
先に受け取った額が小さいときは、重なりを短く見ます
年を分けて、間隔も足りない場合でも、先に受け取った額が、先に受け取ったほうの退職所得控除より少ないときは、重なっている期間を短く見ます(所得税法施行令第70条第2項)。先に受け取った額が少なかった方を救うための決まりです。
| 先に受け取った額 | 重なりとみなす年数 |
|---|---|
| 800万円以下 | 収入金額÷40万円 |
| 800万円を超える | (収入金額−800万円)÷70万円+20 |
1年未満は切り捨てます。55歳で早期退職して退職金400万円(勤続30年)を受け取り、60歳で確定拠出年金の一時金(加入30年)を受け取る場合、重なりは30年ではなく10年(400万円÷40万円)とみなされます。退職所得控除は1,500万円−400万円で1,100万円になります。
年金で受け取る場合は、話が変わってきます
ここまでは、確定拠出年金を一時金で受け取る場合の話です。確定拠出年金の老齢給付金は、法律のうえでは年金として支給するものとされていて、規約に定めがあれば一時金にできる、という決まりになっています(確定拠出年金法第35条)。
年金で受け取ると、退職所得ではなく公的年金等の雑所得になります(所得税法施行令第82条の2第2項第6号)。使う控除も退職所得控除ではなく公的年金等控除に変わるので、順番と間隔の話にはなりません。ただし公的年金等控除は、老齢基礎年金・老齢厚生年金と合わせた収入で計算します。受け取る時期が公的年金と重なると、公的年金等控除の枠を分け合うことになります。
一時金と年金を組み合わせられるかどうかは、規約によって違います。
勤務先は、ほかで受け取ったお金を知ることができません
この計算をするのは、退職金を払う会社です。ただし会社は、あなたが別の会社や運営管理機関から受け取ったお金を知ることができません。「退職所得の受給に関する申告書」に、本人が書きます。
欄はAからEまであります。
- A欄……全員が書きます。退職した年月日、一般か障害かの区分、今回の勤続期間(いつからいつまでと、その年数)を書きます。前に退職手当等を受け取ったことがない方は、A欄で終わりになります
- B欄……本年中に、ほかにも退職手当等を受け取った場合。その勤続期間と、A欄と通算した勤続期間を書きます
- C欄……前年以前に受け取った場合。さかのぼる年数は3とおりに分かれていて、⑴前年以前4年内、⑵2026年1月1日以後で、前年以前9年内に確定拠出年金の一時金を受け取った場合、⑶本年中に確定拠出年金の一時金を受け取る場合は、前年以前19年内です。退職金が先で確定拠出年金があとになる方は、⑶にあたります
- D欄……前の勤続期間が通算されている場合
- E欄……BまたはCがある場合に、受け取った金額、所得税の源泉徴収税額、住民税の特別徴収税額、受け取った年月日、支払った会社や運営管理機関を書きます。確定拠出年金の老齢給付金なら「老齢給付金」の欄に○を付けます
書かなければ、その会社での勤続年数で計算されます。申告書そのものについては、別の記事をご確認ください。退職金は、申告書を提出しないと20.42%が引かれます
まとめ
- 同じ年に両方受け取ると、いちばん長い期間で退職所得控除を計算します。確定拠出年金の加入期間のほうが長ければ、そちらが使われます。長いほうからはみ出している期間があれば、そのぶんを足します
- 年を分けるなら、確定拠出年金が先で10年、退職金が先で20年あけると、差し引かれません。確定拠出年金は75歳までに請求することになっているので、20年をあけられるのは、55歳までに退職金を受け取った方です
- 退職金が先で、20年あかないときは、重なった期間ぶんの退職所得控除の額が差し引かれます。この記事の例では80万円まで下がりました。差し引かれる額は重なった期間で決まるので、1年あけても19年あけても同じです。ただし、あいだに掛金を払い続ければ、加入期間が延びたぶん退職所得控除は増えます(掛金を払えるのは原則65歳になるまで。2026年12月からは70歳になるまでです)
- 額の大きいほうを先に受け取ると、税金は少なくなります。先に受け取るほうで退職所得控除を使い切れると、あとのほうに最低額の80万円がつくためです。試算では、確定拠出年金を先にした場合が約184万円で、同じ年(約211万円)より約27万円少なくなりました
- 確かめる先は、退職金の見込み額と支給の時期は勤務先の人事・総務、確定拠出年金の加入期間と受け取れる時期は運営管理機関、申告書の書き方は税務署です
60歳や65歳が近づいたら、退職金の見込み額と確定拠出年金の残高、それぞれの期間と受け取る時期を並べて書き出してみてください。
確定拠出年金の決まりは、ここ数年で何度も変わっています。この記事の「確定拠出年金が先なら10年」も、2026年1月1日に5年から延びたものです。掛金を払える年齢も、2026年12月1日から70歳になるまでに延びます。受け取る時期が近づいたら、そのときの決まりをもう一度確かめてから決めてください。
退職したあとのお金の記事
この記事は、退職したあとのお金をまとめた5本のうちの1本です。あわせてどうぞ。
- 退職後の健康保険の切り替え。20日で選択肢がひとつ消えます
- 会社都合で退職したら、国民健康保険は前年の給与所得を3割とみなします。任意継続との差は年25万円
- 転職・退職をすると、iDeCoは届け出が必要になります
- 退職金は、申告書を提出しないと20.42%が引かれます。勤続20年で手取りも変わります
この記事で確認したこと(出どころ)
すべて2026年9月9日までに確かめました。
- e-Gov法令検索 所得税法施行令 第69条(退職所得控除額に係る勤続年数の計算)・第70条(退職所得控除額の計算の特例)・第72条(退職手当等とみなす一時金)・第82条の2(公的年金等の範囲) https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000096
- e-Gov法令検索 所得税法 第30条(退職所得)・第31条(退職手当等とみなす一時金)・第35条(雑所得) https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- e-Gov法令検索 確定拠出年金法 第33条(老齢給付金の支給要件)・第34条(75歳に達したときの支給)・第35条(老齢給付金の支給方法)・第73条(個人型年金への準用) https://laws.e-gov.go.jp/law/413AC0000000088
- 国税庁 タックスアンサー No.2735「同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2735.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.2732「退職手当等に対する源泉徴収」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2732.htm
- 国税庁 退職所得の源泉徴収税額の速算表 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2732_besshi.htm
- 国税庁 退職所得の受給に関する申告書(様式。A〜E欄と「確定拠出年金法に基づく一時金」の欄) https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/010705/pdf/0025007-004.pdf
- 厚生労働省「iDeCoの概要」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/kyoshutsu/ideco.html

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