病気やけがで働けなくなったとき、いちばん先に不安になるのはお金のことだと思います。
給料は止まります。けれど、支払いのほうは止まりません。社会保険料は休んでいるあいだも引かれ続けますし、住民税は前の年の所得にかかるので、収入がなくなった年もそのまま請求が来ます。
この「入ってこないのに出ていく」時期を支えるために、公的な仕組みが二段構えで用意されています。
まず支えるのは傷病手当金
会社の健康保険に入っている方が、仕事以外の理由の病気やけがで働けなくなったときに出るお金です。パートやアルバイトでも、健康保険に加入していれば対象になります。
もらえる額は、おおむね給与の3分の2です。正確には、休みはじめる前の1年間の標準報酬月額の平均を30で割り、その3分の2が1日あたりの金額になります。
受け取るには、連続する3日間を含めて4日以上仕事を休んでいることが必要です。この最初の3日間は「待期」といって、ここには手当は出ません。有給休暇でも土日でも構いませんが、連続していないと成立しません。2日休んで3日目に出勤すると、そこで数え直しになります。
なお、仕事中や通勤中のけが・病気はこの制度ではなく労災の扱いになります。両方を同時に受け取ることはできません。
「1年6か月」の数え方が変わりました
傷病手当金が出る期間は、支給が始まった日から通算して1年6か月です。
ここは令和4年1月に変わったところで、それまでは「始まった日から1年6か月」というカレンダー通りの数え方でした。今は通算なので、途中でいったん復帰して働いた期間は日数に数えません。その分、あとに繰り越せます。
体調に波がある病気では、この違いが大きく効きます。「一度戻ったら期限が減ってしまう」と身構えて、無理に休み続ける必要はなくなりました。
もうひとつ。休んでいるあいだに会社から給与の一部が出た場合は、その分が差し引かれます。ただし給与のほうが傷病手当金より少なければ、差額が支給されます。
次に支えるのは障害年金
1年6か月というのは、思っているより早く来ます。そして、そこで終わりではありません。
障害が残っている場合には、障害年金という別の制度に引き継がれます。こちらは健康保険ではなく公的年金の仕組みです。
令和8年度の障害基礎年金は、2級で年額847,300円、1級で年額1,059,125円です。お子さんがいる場合は2人目まで1人につき243,800円、3人目からは1人につき81,300円が加算されます。会社員として厚生年金に入っていた方は、これに障害厚生年金が上乗せされます(3級のみの場合でも最低635,500円が保障されます)。
障害年金について、誤解されやすい点を3つだけ。
- 病名では決まりません。 仕事や日常生活にどれだけ支障があるかで判断されます。うつ病などの精神疾患も対象です。
- 働きながらでも受け取れます。 「働いたら止まる」と思っている方が多いのですが、そうではありません。
- 非課税です。 税金は引かれません。
数え方の起点が違います
ここは分かりにくいので、はっきり書いておきます。
- 傷病手当金の1年6か月 … 手当が出はじめた日から数える
- 障害年金の「障害認定日」 … はじめて医師の診察を受けた日(初診日)から1年6か月
起点が違うので、同じ「1年6か月」でも時期がずれます。 病院にかかってから休職に入るまでに間があいた方は、障害年金の側が先に来ることになります。傷病手当金が切れる日を待ってから動き出すと、遅れることがあります。
見落とされやすい落とし穴
障害年金には、保険料をきちんと納めていたか、という条件があります。初診日の前々月までの期間の3分の2以上が納付か免除であること。あるいは直近1年間に未納がないこと(初診日が令和18年3月末までの場合の特例)。
問題は、辞めたあとの空白期間です。
体調を崩して退職した方は、国民年金への切り替えに行く気力が出ないまま、手続きを後回しにしがちです。その未納の期間中に新しい病院にかかると、そこが初診日と扱われ、条件を満たさなくなることがあります。
前回の記事で健康保険の期限の話を書きましたが、年金のほうも同じです。保険料を払うのが難しければ、免除の申請ができます。窓口で「払えない」と言えば手続きを教えてもらえます。放っておくのがいちばん不利になります。
産業医として、ひとつだけ
私が仕事のなかで感じるのは、この時間軸を早く知っているかどうかで、療養の過ごし方が変わるということです。
「あと何か月あるのか」が分からないまま休んでいると、焦りが治療の邪魔をします。逆に、1年6か月という区切りと、その先にも仕組みがあることを知っていれば、腰を据えて休めます。
そして、申請の手続きは体調が悪いときほど負担になります。病院の相談窓口(医療ソーシャルワーカー)は、こうした制度の相談を受けてくれる場所です。ご家族に動いてもらうのも構いません。ひとりで抱える必要はありません。
まとめ
- 働けない期間のお金は、傷病手当金 → 障害年金の二段構え
- 傷病手当金は給与のおおむね3分の2。連続3日の待期のあと、4日目から
- 期間は通算して1年6か月。途中で復帰した分は繰り越せる(令和4年1月から)
- 障害年金は病名ではなく生活・仕事への支障で決まる。働きながらでも受け取れて、非課税
- 1年6か月の起点が両者で違う(手当は支給開始日、年金は初診日)
- 退職するなら年金の切り替えを必ず先に。未納期間はあとで効いてくる
制度の細かいところは、加入している健康保険や個々の状況によって違います。この記事は考え方の整理としてお読みいただき、実際の判断はご自身の窓口でご確認ください。

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