病気やケガで会社を長く休むことになったとき、健康保険から傷病手当金が出ます。おおよそ給与の3分の2です。
以前の記事で、この傷病手当金と、そのあとに続く障害年金のことを書きました。休職したときに「入ってくるお金」の話です。
今回はその裏側です。休んでいる間、給与は多くの場合止まります。ところが、その給与から引かれていたお金のほうは、全部が止まるわけではありません。
3分の2が入ってくるはずなのに、手元に残るのは半分ほど。この差がどこから来るのかを、順番に見ていきます。
給与が止まっても、社会保険料は止まりません
健康保険料と厚生年金保険料は、会社に在籍している限りかかり続けます。休職して給与がゼロになっても同じです。
健康保険法は、保険料を「各月につき」計算すると定めています。基準になるのは、その人の標準報酬月額です。その月にいくら給与が支払われたか、ではありません。
しかも、休職しても標準報酬月額は下がりません。
標準報酬月額が年の途中で変わるのは、昇給や降給によって固定的賃金そのものが動き、そのうえで標準報酬月額が2等級以上変わり、しかも3か月続けて支払いの基礎になる日数が17日以上ある、という3つがそろったときだけです。給与が支払われなかった月は、この条件を満たしません。
つまり、休職前の給与を基準にした保険料が、給与ゼロの月にもそのままかかります。
産休・育休には免除があります。病気の休職にはありません

ここは、いちばん誤解されやすいところです。
産前産後休業と育児休業の期間は、健康保険料も厚生年金保険料も免除されます。本人負担分だけでなく、会社負担分もです。しかも免除された期間は保険料を納めたものとして扱われるので、将来受け取る年金額も減りません。
これは健康保険法と厚生年金保険法に、条文としてはっきり書かれた制度です。
そして、書かれているのは産休と育休だけです。病気やケガによる休職について、同じ免除の規定はありません。
「働いていないのだから、いったん止まるだろう」と考えてしまいがちですが、止まりません。
2026年4月から、新しい負担がひとつ加わりました
2026年4月分の保険料から、子ども・子育て支援金の徴収が始まりました。児童手当の拡充などの財源を、企業も含めた全世代で負担するという仕組みです。
会社員が入る被用者保険(協会けんぽ・健康保険組合・共済組合)では、全国一律で0.23%と決められています。標準報酬月額と賞与にかかり、健康保険料と同じように会社と半分ずつ負担します。
給与明細での見え方は、会社によって違います。健康保険料の中に含まれていて1行のままの会社もあれば、「子ども・子育て支援金」という項目が別に立っている会社もあります。法律の条文では、健康保険料率と子ども・子育て支援金率を合算した率で保険料額を計算する、と定められているので(健康保険法第156条)、どちらの見え方でも引かれている中身は同じです。
標準報酬月額が30万円の方なら、全額で月690円、本人負担はその半分の345円です。金額そのものは大きくありません。
なお、この支援金は会社員だけの話ではありません。国民健康保険や後期高齢者医療でも、同じ時期から徴収が始まっています。国民健康保険の場合は率を市町村が条例で決めるので、住んでいる場所で変わります。しかも、会社が半分を持ってくれるしくみがないので、全額が世帯の負担です。休職が長引いて退職することになったときは、ここも効いてきます。
ただ、大事なのはこれも休職中には止まらないということです。健康保険料と一体で計算されるので、健康保険料が止まらない以上、こちらも止まりません。
なお、産休・育休の免除は保険料そのものが対象なので、支援金も一緒に免除されます。
住民税は、去年の所得にかかってきます

もうひとつ、休職中の家計にいちばん重くのしかかるのが住民税です。
住民税は、前年の1月から12月までの所得に対して計算され、給与から天引きされる場合は、その翌年の6月から翌々年の5月にかけて12回に分けて納めます。
つまり、休職している今年の税額を決めているのは、元気に働いていた去年の所得です。今年の収入が減ったからといって、今年納める住民税が下がることは原則としてありません(生活が著しく苦しくなったときの減免制度を設けている自治体もあるので、気になる場合は市区町村に相談してください)。
税率は、所得から所得控除を引いたあとの金額に対して10%(市町村民税6%+道府県民税4%)が標準です。これに定額の均等割が加わります。
休職して最初の1年がいちばん重いのは、このためです。
給与から天引きできなくなると、会社は事由が起きた月の翌月10日までに、市区町村へ届け出をします。休職中は給与が出ないので、そこから引くことができません。そのため、自分で納める普通徴収に切り替わるのが基本です。休職前の最後の給与や賞与から引ける分があるときは、残りをまとめて引く一括徴収になることもあります。
逆に、止まるものもあります
出ていくものが全部続くわけではありません。
所得税は止まります。給与が支払われなければ、そこから源泉徴収するものがないからです。そして傷病手当金そのものにも税金はかかりません。健康保険法に「租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金品を標準として、課することができない」と定められています。
雇用保険料も止まります。こちらは実際に支払われた賃金に率を掛けて計算するので、賃金がゼロなら保険料もゼロです。
つまり、休職中に出ていき続けるのは、社会保険料と住民税のふたつということになります。
数字を並べてみます
標準報酬月額30万円、大阪府の協会けんぽに加入している40歳未満の方が、まるまる1か月休職した場合です。傷病手当金は最初の3日間が待期期間で支給されないので、ここでは休職2か月目以降の1か月を見ています。

入ってくる傷病手当金は、約200,000円です。30万円を30で割った1万円に3分の2を掛けて、1日あたり6,667円。その30日分です。
出ていくほうは、健康保険料が15,195円、子ども・子育て支援金が345円、厚生年金保険料が27,450円。社会保険料だけで42,990円です。支援金は健康保険料と一緒に引かれるので、図では2つを合わせて15,540円としています。
ここに住民税が乗ります。前年の年収が400万円ほどだった方(単身の場合)なら、住民税はおよそ年17万円、月に直すと1万4千円ほどになります。扶養している家族の人数などで変わるので、ご自身の額は毎年6月ごろに配られる住民税の通知書で確かめてください。
合わせると、出ていくお金はおよそ5万7千円。手元に残るのは14万3千円ほどです。
40歳から64歳までの方は、これに介護保険料が加わります。健康保険料と合わせた本人負担が17,625円になるので、出ていくお金はさらに2,430円増えます。協会けんぽの介護保険料率は全国一律です(健康保険組合の場合は組合ごとに違います)。65歳になると、市町村ごとに決まる保険料へ切り替わります。
もとの給与30万円に対して、手元に残るのは半分ほど。「3分の2が出ます」という言葉から受ける印象とは、ずいぶん違います。
休職が決まったら、会社に4つ確かめてください
1つ目は、社会保険料の本人負担分をどうやって払うかです。給与が出ない以上、天引きができません。多くの会社は、いったん立て替えて納めたうえで、あとから本人に請求します。毎月振り込むのか、復職後の給与からまとめて引かれるのか。後者だと、復職した月の給与がほとんど残らないことがあります。
2つ目は、住民税をどうやって納めるかです。普通徴収に切り替わるなら、市区町村から納付書が届きます。年4回払いなので、1回あたりの額が大きく見えます。一括徴収されるなら、休職前の最後の給与から引かれます。どちらになるかで、当面の資金繰りが変わります。
3つ目は、傷病手当金の申請を誰がいつ出すかです。申請書には会社の証明欄と医師の証明欄があります。休んでいる本人がいちばん動きにくい時期なので、誰がどの順番で進めるかを先に決めておくと安心です。
4つ目は、休職中に会社から給与や手当が出るかどうかです。就業規則で給与の一部を支払う会社があります。ただし、その場合は傷病手当金が満額もらえません。給与が支払われている間、傷病手当金は支給されず、給与のほうが傷病手当金より少ないときに限って、その差額が支給されるしくみだからです。「会社からも出て、傷病手当金も満額入る」ではない、とおぼえておいてください。逆に、勤め先が健康保険組合に加入している場合は、組合独自の上乗せ(付加給付)があることがあります。こちらは傷病手当金を減らしません。協会けんぽにはない制度なので、加入先がどちらかで変わります。
まとめ
傷病手当金は、休職中の生活を支える大切な制度です。ただ、給与の3分の2という数字をそのまま生活費として当てにすると、足りなくなります。
社会保険料は在籍している限り止まりません。2026年4月からは、そこに子ども・子育て支援金も加わりました。住民税は去年の所得にかかってくるので、休職して最初の1年がいちばん重くなります。
いざというときのお金をどれくらい持っておくかを考えるときは、「給与の3分の2が入る」ではなく「もとの給与の半分くらいが残る」を出発点にしてください。数か月分の生活費が手元にあるかどうかで、療養に集中できるかどうかが変わります。
以前の記事は、休んだときに入ってくるお金の話でした。今回は出ていくお金の話です。知っていても出ていく額は減りませんが、備え方は変えられます。
